・ ページ20
「どういうことですか…」
彼女の纏う空気は緩く、かといって指摘できる程自分がしゃんとしているかと言われればNOでしかないのだが。
「離れたくないの〜…」
今日のAさんは、雲の上にいるようである。
おとぎ話ももっと、自身の甘さを鑑みて首をすくめるだろう。
「…そんなに寂しかったんですか」
「うん」
「遠いの、嫌ですか」
「んー…拓海くんの人生は、邪魔したくないよ。遠いのはしょうがない。…でも」
「でも？」
「すぐ会えないのは、寂しいね」
ころりと隣に転げ落ちて、腕どころか足まで絡めて抱き着いてくる彼女の声はふわふわと揺れている。
お豆腐は、大事。と朧げに呟くから、普段とは随分遠いよりみちだ。
「でもね…一緒に朝ごはん食べたり、おかえりって、お出迎えもしたい」
すぅ、と息を吸う音が届く。
拓海くんのにおい。と呟くから、かがないでください。と答えればくぐもった声がヤ。と不服を訴えた。
「…一緒にすみたい。…いつか」
「いつか？」
「…ん。」
「今じゃなくて、いいんですか」
「そりゃぁ、今がいいさ」
時折不思議な抑揚や語尾になるのがおかしくて、身体を撫でるとご満悦そうに微笑んでいる。
だけどね、と続く声は、今にも眠りに落ちそうだ。
「拓海くんの大事なもの、…のかしてまで、我儘言うのは嫌なの」
添える指先は力が籠っておらず、かといって滑り落ちていくのは惜しくて小さな手を引き寄せた。
「いつかの、為に、…頑張ってるの」
「…一緒に暮らせるように？」
「うん……寂しいけど、今は、…我慢」
拓海くんは？と続けたそうな声は微睡んでいて、彼女の方を向いて抱き寄せれば足先まで絡み体がすりよる。
「…俺も、もっと頑張りますよ」
「…私の為？」
「…一緒にいるために」
今にも眠り込んでしまいそうなのに頑張る姿は可愛らしくて、素直に応えれば吐息で笑う彼女。
体が少しの隙間もなく触れ合って、じんわりと共有される熱に口元が緩んだ。
「…嬉しい。…幸せ。」
柔らかで甘い声音が、心を強く掴んで離さない。
抱き込む俺に、応える彼女が額をすりよせる。
「……大好きよ、拓海くん」
腕の中の身体は温かくて、絡む足先で身動きが取れないのにそれすら愛おしい。
規則正しく続く呼吸音は緩やかな眠りへと導いて、自身も目を閉じる。
明日もし彼女が覚えてくれていたなら、どんな言葉で返せるだろうかと思いながら緩く息をついた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
み(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» お楽しみ頂けた様で嬉しいです〜〜！！ありがとうございます😊❤😍✨ (3月12日 7時) (
レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - やばい！！！！やばいです😭😭😭拓海いぃぃぃぃぃいいいい好きだァァァァァ (3月11日 4時) (レス) @page41 id: b9b005fe2b (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - るさん» こちらこそお褒めの言葉ありがとうございます😊💕💕もっと楽しんで頂けますよう更新頑張ります！ (11月24日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
る - 最高すぎます。本当にありがとうございます😭😭😭😭😭更新楽しみにしてます🥰 (11月23日 8時) (レス) id: 74e8a14f0e (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - わんさん» いにで大好きなのですが余りに供給が少なくついに手を出してしまいました…！お読み下さりありがとうございます💕これからもお楽しみ頂けるよう頑張ります！ (11月22日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：み
| 作成日時：2023年9月29日 15時
