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決して誇張のない返信を終え、送信完了画面を確認し顔を上げる。
眉を寄せた私に、目が合った一人は少し、たじろいだ。
「私が好きな男の子を貶せば貶す程、その倍以上に貴方たちの株が下がるのは当然じゃない。どうして分からないの?バカなの?」
のらりくらりと躱していた表情に怒りが滲む。
はっぱをかけるのは少し早かったかしら、と静かな夜を悔やんだ。
優しくしていれば、とか、調子に乗りやがって、とかはどうやら、漫画やドラマだけのセリフではなかったようだ。
石でも投げて不意打ちをつければ車に乗れるかしら、等とポケットの中のキーを触れながら、騒ぐ心臓を落ち着ける。
つい数分まで、戦うべきではないと諦めていたのに、繰り返す断りを聞き入れられない事に逃げ道さえ探していたのに、拓海くんのことになるとすぐこれだ。
愛する人を下げられて黙っていられる、恋に溺れた女の子なんていない。
彼がいないと息ができないから、ずっとそばにいたいから強くなれるのに、その源を壊されかけようとして見過ごすなどなるものか。
「そんな言い回しなら、一夜の女の子さえ捕まえられないわよ」
強く見つめた視線をアスファルトへ逸らし、もしもの為に適当なサイズの小石を見繕う。
大層申し訳ないがこれをぶつけてでも触れられたくはなかったし、愛車へもまた然りだった。
「この野郎…ッッ!!」
やろうじゃない、と言い返す間もなく。
「ッッ…!?!?」
突如響き渡った、厚く、重く、唸る様なエキゾーストノート。
路面とタイヤが擦れる音は耳をつんざく様で、葉が揺らぐ音をも聞こえる麓を切り開く爆音に腕を上げかけた男性らも慌て振り返る。
見知らぬ異性に囲まれるというのは、想定を超えて恐怖を煽られるのだと初めて知った。
彼の到着に耳を澄ませていたはずなのに、いつの間にやら破裂しそうな程早鐘を鳴らす心臓と、切り抜けたい一心で周りが見えなくなっていた様だ。
「お、おいあのハチロク…ッ!!」
今まで与えられていた優しさが身に染みて分かり、彼らのおかげで私は他もなく、幸せな車の世界にいさせてもらえたのだと知った。
だからイレギュラーに対処できない自分が歯がゆくて、申し訳なくて、だけど無性に、彼を視認しただけで、安堵のため息が漏れた。
思わず目を瞑りたくなるほど、駐車場へ入り込むコーナーをガードレールすれすれで流しきったまま爆音とともに急停止した車。
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み(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» お楽しみ頂けた様で嬉しいです〜〜!!ありがとうございます😊❤😍✨ (3月12日 7時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - やばい!!!!やばいです😭😭😭拓海いぃぃぃぃぃいいいい好きだァァァァァ (3月11日 4時) (レス) @page41 id: b9b005fe2b (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - るさん» こちらこそお褒めの言葉ありがとうございます😊💕💕もっと楽しんで頂けますよう更新頑張ります! (11月24日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
る - 最高すぎます。本当にありがとうございます😭😭😭😭😭更新楽しみにしてます🥰 (11月23日 8時) (レス) id: 74e8a14f0e (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - わんさん» いにで大好きなのですが余りに供給が少なくついに手を出してしまいました…!お読み下さりありがとうございます💕これからもお楽しみ頂けるよう頑張ります! (11月22日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:み | 作成日時:2023年9月29日 15時