甘味を求むる眼差しの行方 ページ12
彼女の部屋に俺の私物が増えていく事を、Aさんは随分と、喜んでいた。
俺が家の物を使う事さえ満足げで、断りにも遠慮はいらないと言うし、夕食後、食べたいと告げていた梨の用意をすればたったそれだけのことで幸せそうに笑ってくれた。
支度云々というより俺が自宅みたく振舞う所作の方が喜びの度合いが大きい様で、なんともむず痒い気分になる。
だからこそ、彼女が眠り込んだ折に何もできない訳ではなくなったが。
それでも人様の冷蔵庫を見物した上での選択は厳しい。
昨日の残りご飯に合わせ味噌汁でも作ろうかと思ったがはたしてどの食材であれば使っていいのか。
躊躇った手が、ドリップコーヒーの袋を取った。
きっとAさんなら、好きに使ってよかったのにと告げてくれる。
この会話もいずれ、なくなるのだろうか。
その時俺は、ここに当たり前の様に住んでいるのだろうか。
受け取ろうとしない食事代を何とか毎回こっそり置いていくのではなくて、二人の収入から生活費を、そうなればもしかしたらここではなくて。
微睡む思考が朧げな未来予想図を描きながら、食パンがトースターへ旅に出る。
いささか、こちらの方がハードルが低い。
水がゆだりはじめた音へ紛れる足音に振り返るが姿はなく、暫くで洗面所から物音がするから再びやかんへと視線は戻った。
Aさんはいつも、ミルクをティースプーン一杯。砂糖は悩んだが、今までの経験と昨夜の本音を鑑みて追加することにした。
くるりと円を描く水面を眺めている内に腹辺りに両腕が回って、背中がじんわりと熱を伝える。
「……Aさん。おはようございます」
「おはよぉ、拓海くん」
振り返り手を伸ばすと、クリーム塗ったからぺたぺたするよ、と呟くAさんが抱きしめたまま視線の先を伺う。
二つのカップと皿を見つめた後俺を見上げた瞳は、未だ少し柔らかかった。
「あさごはん、用意してくれたんだ。ありがとね」
「…勝手にですけどね」
「いいよ、いいよぉ。…すっごく、嬉しい」
ふにゃりと微笑んで、頬を擦り寄せ嬉しそうに笑う。
緩やかな口元を眺めていれば、再び丸っこい瞳が見上げた。
「おさとう、いれてもいい？」
「いれましたよ」
「…流石だねぇ」
ぱちりと瞬きをして、わずかに開いた唇が弧を描く様に変わる。
用意のできた皿を掴む指先はしなやかで、小さな歯が覗くひとくちを眺めていた。
秒針は変わらず、舟をこぎながら回っている。
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み(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» お楽しみ頂けた様で嬉しいです〜〜！！ありがとうございます😊❤😍✨ (3月12日 7時) (
レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - やばい！！！！やばいです😭😭😭拓海いぃぃぃぃぃいいいい好きだァァァァァ (3月11日 4時) (レス) @page41 id: b9b005fe2b (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - るさん» こちらこそお褒めの言葉ありがとうございます😊💕💕もっと楽しんで頂けますよう更新頑張ります！ (11月24日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
る - 最高すぎます。本当にありがとうございます😭😭😭😭😭更新楽しみにしてます🥰 (11月23日 8時) (レス) id: 74e8a14f0e (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - わんさん» いにで大好きなのですが余りに供給が少なくついに手を出してしまいました…！お読み下さりありがとうございます💕これからもお楽しみ頂けるよう頑張ります！ (11月22日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：み
| 作成日時：2023年9月29日 15時
