【藤原拓海】月夜の星を追いかけて【イニD】 (ページ39)

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真面目ゆえに。ページ39

Aさんとの関係性が変わってから数回の遠征を経験したが、別段何かを聞かれる事も勘繰られる事もなく平穏に過ぎていった。

すぐの遠征で少しどぎまぎしていたのも可愛かったけれど、慣れたのか普通に話しかけてきてくれる彼女もそれもまたそれでよい。

惚けた思考は増したが、特別な人が俺の活躍を期待してくれているというのは精神的にも強みになるらしくより遠征にも集中できた。

「今日もバレなかったねぇ」

「普段通りですしね」

帰りの車内、助手席でけらけらと笑うAさんは俺らが完勝したこともありいつにもましてご機嫌だ。
音符や花が周りを飛んでいても違和感がないほど莞爾と微笑む様はこちらまで癒されるものである。

「嬉しいような、寂しいような」

「ケンタさんとかうるさそうだしいいんじゃないですか」

「うるさそう…確かに」

つい飛び出た本音に後悔したが、言えてる。と笑う彼女はツボに入ったのか随分引きずっていた。

拓海くんも言うようになったね、とたった一言を言い終わるまでに笑い過ぎて随分時間を要したが、まぁそんなところも可愛いのでオールオーケーだ。

他愛のない話が盛り上がり、一区切りついても無理に話題を探す必要のない車内は居心地が良い。
安らぎさえ覚える帰路は随分と早く終わってしまう様にも感じる。

彼女のマンション前で車から降り、姿が見えなくなるまで見ていてしまうのもAさんに指摘されてようやく気付く。
喜びを隠さない愉し気な微笑みで特別を感じている感謝を伝えられれば、満たされた気持ちになるのも仕方がなかった。

「今日もお疲れ様。すっごくかっこよかったよ」

荷物を受け取ったAさんが見上げる。
品の良い仕草とあどけない微笑みのギャップに心奪われるばかりか、意外とストレートに選んでくる言葉に慣れるはずもない。

「…ありがとう、ございます」

羞恥で視線が逸れる俺へ、鞄を肩にかけなおしたAさんは首を傾げ伺った。
ポニーテールにした毛先が遅れて動くのは、いつもよりも快活でいて初心に感じる。

「次、暇な日ある？一緒に遊ぼ」

覗き込む瞳は何度見ても心地よく心臓を締め付けていくのだと知る。

自宅まで来る旨を告げる彼女に俺が迎えに来ようかと伺ったが、いつもの送迎のお礼と譲らないから素直に甘える。
案の定ぱっと顔を輝かせる純粋な姿が愛おしくて、息をついた。

これが後に心臓を騒がせることになるのは、俺はまだ知らない。