【藤原拓海】月夜の星を追いかけて【イニD】 (ページ19)

今日:57 hit、昨日:3 hit、合計:17,929 hit

褪せたことのない本音と努めた距離ページ19

プロジェクトへの参加を決めてくれた拓海くんは、真剣に、真摯に全ての事を受け止めて進んでくれた。

スポンジの様に、とよく言うが、まさしく体現していると言える程彼の成長は目覚ましい。

数日は遠慮と緊張が色濃かったけれど、今では謙虚に自分の意見も伝えてくれる事が増えた。

「拓海くんお疲れ様、今日もお仕事おわり？」

「Aさん！お疲れ様です。直行で来ました」

初日、すぅっと逸れていく視線と続かない会話にガソリンスタンドで話した時とのギャップがひどく心が折れかけたが、徐々にたわいのない話ができるようになった。

ぱっと明るくなる表情は年相応で可愛らしいのに、運転する視線は鋭くてかっこよくて、意外と背も高い。見上げないと目が合わなくて、色白で着痩せするのに力持ち。

「っ、Aさん、変わりますよ」

「んぇ、疲れてるでしょう？」

「俺は全然です。…てか女性に運ばせるものでは…」

いつも私を気にかけてくれて、元気だと伝えれば安心したみたく笑ってくれるから、あの時心に蓋をしていたカワイイ後輩なんて言い訳はすぐに剥がれ落ちてしまう。

初めて会った時よりももっともっと頼れる男の子で、可愛いと感じる事もあるけれどそれより何倍も、見惚れることが増えた。

朝から夕まで働いて、お店の手伝いもこなすにも関わらず疲れを見せず毎回真面目に取り組んでくれる。

会えない日には何をしているか気になって、拓海くんの乗るトラックとすれ違うはずないのに期待して、遠征が決まれば何日も前から張り切ってしまうし服だって決まらない。

いつしか拓海くんの隣に並ぶ女の子を勝手に想像して、羨望を通りこし悲痛に胸が痛むのだから、とうの昔に名前のついていた気持ちは膨らんでばかりだった。

本当はずっと、彼の傍にいたいし、一緒に過ごして、色んなことを一緒に経験して、沢山お話しして、笑いたい。

拓海くんの特別な女の子になりたい。

だけど今は、皆で一つの夢を目指している真っ只中。
邪な感情で彼を惑わせる事も、皆に気を遣わせることもしたくない。

恋する私を蔑ろにはしないけれど、今の優先順位は涼介さんのプロジェクトが誰にとっても頂点なのだ。

一緒にいられる機会があるだけで良い事なのだと鼓舞し、気持ちをゆっくり育てていくことを決めて毎度の夜を迎える。

そうして今日も集合場所に集まったのだけれど、拓海くんはいつもより少し、表情が曇っていた。