【藤原拓海】月夜の星を追いかけて【イニD】 (ページ14)

今日:56 hit、昨日:3 hit、合計:17,928 hit

思案が渦を呼ぶページ14

淡いピンク色で、右端に桜の花びらの舞うデザイン。
優しい字体とよく似合っていて、半分に折り上げしばし迷った末、生徒手帳のカバーの間に挟み込む。

けれど流行りのケータイなんて持っていないから、何度も話題を迷い受話器を持ち上げてはやめを繰り返し声を聴く勇気などすぐに薄れてしまった。

たった数回会って話をしただけなのだから、俺が入る隙等あるはずがないと落ち着かせる。

膨らんだりしぼんだり制御の効かない思考に悩みあぐねているというのに、当の彼女はまた、朗らかな笑顔で駆け寄ってくるのだからどんな顔をしたらよいか、わからなかった。

「拓海くんっ！！ぁ、イツキくんも！久しぶり！！」

「Aさ…」

「レッドサンズ唯一の女性！！この前はありがとうございました！！」

「ふふ、持ち上げなくていいよ。」

イツキと共に訪れた夜の峠。
GT-RとFDの戦いに盛り上がる観衆へ溶け込む前に、跳ねる程軽やかな声が俺の名前を呼ぶ。

眉を下げ恥ずかしそうに笑うAさんはイツキへ自己紹介をし、次いで俺を見る。
なんとも柔らかく笑うから、単純な俺の鼓動は素直に速度を上げた。

「元気してた？」

「ま、ぁ…」

次の言葉に困る俺を気にするでもなく、それならよかったと笑んだAさんは道路や辺りのギャラリーを眺めている。

今から登ってくるのは高橋啓介だというのに、仲間のいるゴール付近でなくてよいのだろうかと考えたけれど、口を挟む勇気もなく話題を探した。

「ここ…少しだけ下りになってるんですね」

「よく気付いたねぇ」

ダウンヒルに、と呟く俺に、緩く口角を上げて笑む。

柔和な笑みに緊張の欠片もないように見えて、こういうところで漠然と年齢差を感じてしまう自身の単調さも考え物だった。

「フロントタイヤの勝負、に…」

「…なるだろうねぇ」

経験も人生でも先達者であるのに生意気なことを言ったのかもしれない、とAさんの前では妙に言葉を迷ってしまって、これが年上だからなのか、尊敬を感じたからか、はたまた、別の感情が邪魔をしているのか分からない。

無性に、理想像であることを強要している気がすると自身を俯瞰していた。

大して彼女はとくに気にするでもなく、不安だねぇ。と付け加え頷く。
それはまるで明日の小テストを嘆く学生の様に、深刻さを感じさせなかった。

それが彼に対する信頼なのかと勝手に勘繰って胸を傷めるのは、自身でもやめたいとは思っている。