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「そんでもう見回りは無理だ」
タクヤ、と、たしか言ったか。犯人を取り押さえるのは友人に任せ、ケータイを耳に当てた長髪の少年を眺めて、Aはぼんやりと考える。
先程襲撃者を蹴り飛ばし、今拘束しているのは、千堂。わずかに遅れてついた場地が、彼らをそのように呼んでいた。
「ヒナちゃんと場地くんの知り合いの、Aサン? が刺されてるとこ出くわした。救急車呼んで、今警察到着まで犯人抑えてる。ああ。ヒナちゃんと一緒にいるとこ刺されたっぽくて……」
日向はどうも、交番へ駆け込む道中、彼らと鉢合わせたようだ。本職は呼ぶが、それはそれとして、喧嘩の実力を知っている少年たちにも助けを求めたほうが良い。彼女はそう判断したようである。
「わるいなー……クリスマス・イブってか、なんなら、ホワイトクリスマスなのに。ほんと散々で」
「部長もう喋んな!」
「けいすけ、呼び方もどってんぜ」
ちょっと笑えたので指摘すると「口閉じてろ頼むから……!」場地の声がかすかに震えた。顔をぎゅっとしかめるさまは、怒っているようにも、泣くのをこらえているようにも見える。
「アンタ今首から血ぃダバダバ出てんのわかってんのかよ!?」
「あー、わかってるってか、」
まァわかっているかどうかで言うと、わかっている。傷を負った張本人ゆえに。なんなら、痛いを通り越して感覚が無くなってきている。本当にまずい。
Aとしては、普通に防御ミスったなー、やっぱ追い込まれた人間やべえわ、というのと。
「喋ってねえと寝そう」
「前言撤回絶対寝んなずっと喋ってろ」
何人もがコートを脱いでかぶせてきた上、コートについたフードを引っ張り出して来て、ストールだの手袋だのをぎゅうぎゅうに詰め、首筋の傷をなんとか抑え込もうとされている。
止血と、保温。咄嗟の判断としては上出来だ。Aは冷静に俯瞰した。ハロウィンのときに場地に対して施したことを、似たように、施されている。あれを覚えていたのか、あるいは単純に習得したのか。
もしかしたら、あのときの己も、今の場地のように隠しきれていなかったのだろうか。Aはふと考える。
彼は――Aは、あのとき、ハロウィンのとき、本当に怖かった。当然、そんなことは誰にも言わなかったが。
判断を誤ったかもしれない。処置をミスしたかもしれない。救急車がつくまで保たないかもしれない。
目の前で、人が、知人が、死ぬかもしれない。
思ったけれど口にはしなかった。努めて、もちろん助かるというふうに振る舞った。
頭が良い部長が言うならそうだろう、と、彼らは当然のように信じるので。
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-Doe(プロフ) - kaluさん» 読んでくださりありがとうございました。しばらく更新が滞っておりますが、もう少し経ったら最後の話を書き始めるため、もしよければそちらも覗いてください。 (1月29日 18時) (レス) id: e27fa4e6d9 (このIDを非表示/違反報告)
kalu(プロフ) - 物凄く丁寧且つ緻密に書かれていて作品愛を感じました...。伏線も小ネタもすごい...。彼の言い回しや思考回路、他者との掛け合いなどが癖になり一気に読み進めてしまいました。とりあえずフクブくんには一発入れたいですね。素敵な作品をありがとうございます。 (1月3日 2時) (レス) @page50 id: 265da4aaa7 (このIDを非表示/違反報告)
-Doe(プロフ) - いにみっちょさん» ありがとうございます。たぶんまた更新が若干滞りますので気長にお待ち下さい。 (12月16日 21時) (レス) id: e27fa4e6d9 (このIDを非表示/違反報告)
いにみっちょ(プロフ) - 平和な未来が来て終わっちゃうのかとハラハラしてましたが、新たな展開にワクワクドキドキです✨いつも楽しく読ませてもらってます。 (12月16日 19時) (レス) @page50 id: 7d841f830a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:-Doe | 作成日時:2023年12月13日 1時