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「……なにしてるんですか?」
立ち止まって悩む花垣に声がかけられた。直人だ――中身も中学生の方の。鞄を肩に掛けており、それこそいつぞやのように、塾への行き来の道中だろうか。声色は怪訝に満ちていて、視線はいっそ不審人物を見るが如く。
俺オマエの姉ちゃんの彼氏な? 花垣は正直物申したかった。ダサいのでやめた。
「おまえにそんな目される心当たりねえんだけど……」
これは言った。
「姉ちゃんの彼氏が道端で棒立ちしてたらみんなこんな目で見るでしょ」
正しさに満ちた答えが返ってきた。頭を掻いて、花垣はちょっと道の脇に寄った。
「そういや直人、トーマンのひとたち見なかったか?」
「トーマンの? 今見てますけど」
「俺じゃなくて他の」
「それこそそっちのほうが知ってるんじゃ。……あ、でも、そういえば来る途中神宮寺の方行くのを見たような」
「神宮寺の方? それ、具体的にどのへん?」
「えーと、」
上体をひねった直人の身体がぐらりとかしぐ。咄嗟に花垣はその手をひっつかんだ。
「あッぶね……てかオマエ、なんか重!? なに!? 鞄!?」
「あ、ありがとうございます。今日ちょっと本が……」
「塾ってそんな参考書とか使うんだ」
「いやオカルト大全が重くて」
「オウ」
そういえばそうだった、とは花垣の感想。
やたらと重い鞄が重心を振れさせているので「斜めがけにしろよ」と掛け直すのも手伝って、それから花垣は、直人が見たという東京卍會の居所を教えてもらった。側頭部にドラゴンの刺青が入っている長身かつ辮髪の男、とくれば龍宮寺で確定で良さそうだ。教会付近で見かけたらしい。
「ありがとな。あと、もひとつ頼みてェんだけど」
「塾の時間間に合わなくなるんで」
「これはちょっとだから! あのさ、握手してくんね?」
「……またですかあ?」
直人は呆れた表情で、それでもてのひらを差し出した。花垣は、しっかりと握手した。
「……うん! さんきゅ、もう行っていいぜ」
「はあ……」
やっぱりちょっと変な人だなあ、去り際に直人はそんなことをぼやいていった。花垣はしっかり聞き取っていたが、文句は言わなかった。それどころではなかったからだ。
まじまじとてのひらを見つめる。
――二度目のタイムリープのとき。花垣は、日向と直人を間違えて手を握って、二〇一七年へと戻った。もちろん二〇一七年へ戻ろうなどとはあのときは意識していなかった。
今しがた、転けかけた直人の手を咄嗟に握って押し留めたときも。
気の所為かと思ったが。
「……いや、いや、まさか」
なんか、現代に、戻れなくなってね……?
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作者名:-Doe | 作成日時:2023年11月16日 3時