Bitter ページ25
「彼氏、できた」
講義後に夜ご飯に誘われたとき、いつものおちゃらけた感じではなく真面目な雰囲気だった時点で嫌な予感はしていた。
「へえ……おめでとう。」
感情は押し殺してニッコリと笑顔を作って祝福をした俺に、伊野尾くんは俯いていた顔を上げた。
「……ひいた？」
不安そうな顔でそう聞く理由は、先程の発言が「彼女」ではなく「彼氏」だからだろう。
……ひくわけない。だって俺も目の前の男に不毛な恋をしているのだから。
「ひかないよ。でも伊野尾くん、元から男が好きなわけではないよね？」
「うん……。恋愛対象はずっと女の子だったし、それは今でもそうだと思う。でも、あいつは特別で……。」
バイト先の2つ上の先輩。優しくて話しやすく、告白されて戸惑ったもののアタックされるうちに好きになってしまった。顔を赤らめてそんなふうに語る伊野尾くんを、ぼーっとしながら眺めてていた。
なんだ、俺にだってチャンスはあったのかよ。
男同士だからって端から諦めていた自分に呆れる。
俺だって別に恋愛対象が男なわけではない。伊野尾くんだから好きになったのだ。
大学に入って講義が被ったことで知り合い、話しているうちに見た目とは裏腹な性格にずぶずぶとハマって、友情はいつの間にか恋に変わっていた。
2人で飲む度に彼女ほしー、と嘆く伊野尾くんに自分の恋心はしまい切っていたが、こんなことなら俺も告白でもなんでもしておけばよかったのだろうか。
そんなことを思ったところで、全て今更でしかない。勇気がなかった俺が悪いのだ。
俺に出来ることはただ1つ、不安の中打ち明けてくれた伊野尾くんを親友としてサポートすることのみだ。
「教えてくれてありがとう。何かあれば話聞くから、遠慮しないで相談してね。」
そう言った俺に、伊野尾くんは恥ずかしそうにはにかんだ。
チクッと傷んだ俺の心には気付かないふり。
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