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『あの、叶先輩……？』
「例えそうだとしても危険に晒したのも怖い思いさせたことも変わらないでしょ。」
怖い思いをしたはずなのに、君は僕を見てふわりとなんでもないかのように笑って大丈夫、十分だって言うんだ。こんなに体も手も震えてるって言うのに僕のことを気遣って、こんなときまで強がってるんだ。
きっと泣きたいほど怖かっただろうに。きっと呼吸が苦しくなるくらいつらかっただろうに。それなのに君は。
そんな事考えてたらいつの間にか僕は彼女の腕を引いていた。腕の中に閉じ込めて痛くないようにでも強く抱きしめる。
いくら体調不良だとはいえ僕自身が決めた役割をこんな時に守れずして護衛なんて言う名目が務まるのだろうかと考える。でもそれを口にしたところできっと君は大丈夫だと言うんでしょう？本当にどこまでもお人好しで、優しくて、馬鹿なんだ。
「怖かったよね、苦しかったよね、ごめんね。我慢しなくていいんだよ。ほら、僕これでも君の先輩だし、ね。」
『……っ、だって私、先輩の前、で泣いて、ばっか、』
「うん、泣きたいだけ泣けばいい。僕の前で強がらなくていいんだよ。僕にAちゃんの弱いとこ見せてよ。」
『っ……ぃみ、わかん、ない、』
「意味わかんなくてもいいよ。大丈夫。僕がここにいるから。」
控えめに握られていた服がどんどん強い力で握られてってて。大丈夫だよって伝えるように頭を撫でているとだんだん声が震えてきて。意味わかんないって言うから今はまだわかんなくてもいいよって。僕のこんな感情なんてまだ知らなくていいよって思いながらもさっきより腕に力を入れて抱き締める。
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作者名：月河 あをい | 作成日時：2023年11月23日 14時
