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『先輩、心配かけてごめんなさい。でも、あの、やっぱり汗臭いと思うので、その……』
「………ぃや、僕もごめん。とりあえずお風呂、入っておいで。そのままだと冷えちゃうだろうし、ね」
ただ今だけ離れて欲しかっただけなのにお風呂入りなって、服は洗濯機に入れといてくれれば後で回すからって。前私が来てた服を置いておいてくれたのか渡して叶先輩はリビングへと消えていった。
久しぶりの叶先輩宅でシャワーを颯爽と終わらせて叶先輩の待つリビングへと向かった。ドアを押しあげればソファーに座る先輩の後ろ姿が見えた。ゆっくりとその背後に近づけばそれに気づいたのかこちらを振り返る叶先輩。
『ぁ、上がり、ました。』
「うん、Aちゃんこっちおいで」
自分の隣のスペースをトントンっとするから多分そこに座れということで。恐る恐る座れば今度は叶先輩が立ち上がって入れ違いみたいになった。え?ってしてれば飲み物を聞いてくれるからいつも通りココアをもらう。こんな時でもそういう気遣いは忘れない叶先輩がどこまでも優しくていい人なんだってことを思い知らされる。
コトリと机に置かれたそれは叶先輩お得意の甘い甘いココア。ココアなんて普段飲まないし別に好きじゃないけれどこの叶先輩のココアだけはなんだか心が落ち着くからすごく好きだった。
そんな私とは裏腹に紅茶を持って隣に戻ってきた叶先輩はひどく心配そうな顔をしていて、なんだか私より苦しそうで。きっとその原因は他でもない私自身で。心配性な先輩にすごくすごく心配かけちゃったな、とか叶先輩ほんとは体調悪くて休んでたのにな、とかそんなことを考えるばかりで何も言葉に出来なかった。
「……ごめんね、」
『え、』
「僕が守るとかいいながらこんな大事な時に休んでて。無事だったからいいもののもし君に、Aちゃんに何かあったら……」
しばらくの沈黙を破ったのは叶先輩だった。苦しそうな辛そうなそんな顔をしながら心配そうに私を見つめる叶先輩の瞳はゆらゆらと不安げに揺れていた。
『大丈夫です。体調が悪いのにこうやって私のために飲み物も用意してくれて、家に招き入れてくれて。それだけで私は十分です。』
小刻みに震える先輩の手を取ってギュッと包む。私は大丈夫、だから心配しないでって気持ちを込めて。
そしたら突然ぐいっと引かれる腕に驚いて体制を崩し叶先輩の方へ傾いた。え、と思った時にはもう遅くて私の体は叶先輩の腕の中だった。
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作者名:月河 あをい | 作成日時:2023年11月23日 14時