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「A、ちゃん、」

あ、しまったらやかしたなって直感的に思った。
叶先輩の護衛という名の偽の恋人関係が始まってから約1ヶ月ほどがすぎた頃。頻度は高くなったものの実害は特になく、だからこそ油断していた。
叶先輩が体調を崩し、ローレンは運が悪く家庭の事情でお休みで、だから今日はみんなやりたい放題で、私の側に誰かいることはなかった。だから、だからこそみんなからしたら絶好のチャンスでもちろんそのみんなと言うのはこの関係の元凶でもあるストーカーも含まれていて。
風邪を引きながらも申し訳なさそうな、心配だとひしひし伝わってくるような声色で電話越しに私の名前を呼ぶ先輩。

目の前に佇むこの男と耳元から聞こえる機械越しの声とシャンシャンと頭に響く1週間の命の音とかそれらすべてがシャットアウトされたかのように私の耳はピシャリと音を聞き取らなくなった。

「………A!!!」
『っは、ぁ、』

無意識に止めていた息を再開させて本能的に走り出した。これ、やばいやつ。
後ろからは私の名前を呼びながらも追いかけてくるあのストーカーであろう男。耳元の機会からは返事をしない私を心配してか焦ったような叶先輩の声。

「A、A!返事して何があったの!?」
『ぁ、かな、ぇせんぱっ、』

運動は人並にできる。むしろ人並みより少しできる。
けれどこの非日常的な最悪な環境下の中で体が正常に動くはずもなく動きにくい体に鞭を打って必死に走る。
何を言えばいい?なんて説明すればいい?きっと彼に大丈夫問題ないだなんて嘘言ったところで通用するわけも信じてもらえるわけもない。
じゃあ、なんて言うの?ストーカーっぽい人と鉢合わせしました?今逃げるために全力疾走しています?何が正解?


暑さと恐怖と苦しさで頭がショートしそうだ。
私はその時何を考えて何を思っていたんだろう。そんなショート寸前の回りきっていない頭なんて頼りになるわけなくてただ体が思うままに動く。

『かなえ、せんぱ、たす、けてっ……!マンション、家のすぐ側、も、つ、くから……!』

目の前には片手に数えれるくらいしか訪れたことの無い叶先輩のマンション。後ろには多分ストーカーの男。後ろを見て走れるほど今の私には余裕なんてなくてどれくらいの距離なのかとか、ここに逃げたらどうなるとか、男の顔はどんなのだとか、知り合いなのかとかそんなの考えれなかった。苦しくなった息も乱れた呼吸も気にすることなくただただ走って、走る。



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作者名:月河 あをい | 作成日時:2023年11月23日 14時

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