君の声【１】 (ページ7)

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６話ページ7

結弦くんとは初めて会ったのに話すのがとても楽しかった

『今日初めてスケートを生で見たんだけどジャンプの音ってすごいんだね』

「あー、テレビじゃあんまり聞こえないもんね。ねっ、俺のスケートどうだった？」

『えっ、あっ、う～ん。スゴかったよ…』

「なにそのビミョーな感想。まさか見てなかったとか？」

『いやっ、そうじゃなくて(汗)
ホントに申し訳ないんだけどほとんどの人の名前と顔が分かんなくて…。』

「…どれが俺だったか分かんなかったってこと？」

『ホントにゴメンね。でもみんなすごい楽しそうだった。笑顔がすごくキラキラしてて見てるだけで元気になれたよ。』

『３月に震災があったでしょ。わたしの所はそんなに被害はなかったけどテレビで東北の映像を見るたびに悲しくて笑っちゃいけないなんて思ってた。でもお母さんが「悲しい気持ちだけ抱えてるより少しでも楽しい気持ちも抱えた方が前に進めると思う」って言ってくれて。それから自分の夢も見つかったんだ。だからきっと結弦くんたちのスケートはたくさんの人の力になってくれると思うよ』

言いたいことだけ言って結弦くんを見ると
切れ長の真っ黒な瞳から涙が溢れてた

なんてきれいな涙なんだろう……
はっ、見とれてる場合じゃないやっ
バッグの中のタオルを取り出しながら声をかける

『結弦くん、大丈夫？わたし何か変なこと言っちゃっ……』

結弦くんを再び見た瞬間
柔軟剤の優しい香りがしたと同時に首回りに腕がまわされたのを感じた

えっ、えぇー、どーなってんの!?
頭の中がパニックで動けないでいると
耳元で結弦くんの声がした

「Aちゃん、ありがとう」

そう言って少しだけきゅって結弦くんの腕に力がはいった