君の声【１】 (ページ45)

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44話ページ45

かすかに浮かび上がるシルエットを頼りに、ピアノまで歩きスタンバイする
MCが始まりを告げていく

大丈夫…失敗しない……大丈夫…上手くできる
それだけを思って弾き始めた

3時間半後、リハーサルは終了した
ピアノは練習の成果が出せたと思う
弾いてないときも緊張しっぱなしでスケーターのようにモニターで他の人の演技を見て楽しむ余裕なんかなかった
また結弦くんに怒られちゃうな

衣装から普段着に着替えて控え室に戻る途中、誠司くんとプルシェンコさんに呼ばれた

『プルシェンコさん、お疲れさまでした。なんとか失敗しないで弾けましたが大丈夫でしたか？』

「その事なんだけどね、Aちゃん…」

プルシェンコさんの言葉を誠司くんが通訳してくれる

「……て、言うことだけど」

頭が真っ白になって何も言葉が出てこない

「君なら答えを見つけられるから。明日のピアノに期待してるよ」

そう言ってプルシェンコさんは去っていった

そこから先はよく覚えてない
気づいたらホテルの自分の部屋にいた
髪が濡れてるからシャワー浴びたんだと他人事のように思ってしまう
いつもより雑に乾かしてベッドに潜り込む

プルシェンコさんの言葉がずっと頭のなかで繰り返される

【今日の演奏はミスもなくすばらしかった。でもそれだけだ。一緒にやっていても君の想いは何も伝わってこない。君の伝えたい事を思い出して。そしてその為にどうすればいいか考えて】

わたしの伝えたい事か…
震災で傷ついた人だけじゃなくたくさんの人に前を向いてもらいたい
少しでもいいから楽しい気持ちを持ってもらいたい

そんな想いで歌も今回のピアノもやるって決めた
でも思い返せば他の人に迷惑かけちゃいけない、ミスをしないように弾かなくちゃいけない、そんな事を考えながら弾いていたことに今さら気づいた

伝えたい事を伝えるためにはどうしたらいいんだろう？
想いをのせて弾けばいいんだろうけど、今度はそれにとらわれて弾くことができない気がする

答えは出ないまま朝を迎えた