レモンサワー[2] (ページ9)

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ソファに並んで座り、中村さんの様子を伺いながら開いた缶に口をつけた。

いつもより苦いのはきっとこの空気感のせい。

なにを話されるのかな。

私が話し出すのを待ってるのかな。

「話したいこと、って？」

沈黙に耐えきれず私が先に口を開いた。

海人「あの日」

ゆっくり話し始めた中村さん。

海人「嫌だった？」

缶に向いていた目が私を向いて捉えた。

ずるい聞き方だ。

嫌だったら、無理やりにでも振りほどいていたはずだ。

絡んだ視線。

時計の針の音だけが部屋に響いている。

缶を持っていない方の手が私の頬にそっと触れた。

顔が近づいてきて、

あぁ、キスされるんだ。

そう思った。けど、

唇にはなにも触れなかった。

海人「嫌なら、逃げればいいのに」

近かった顔が離れても視線は絡んだままで。

中村さんの揺れてる瞳に私が映っていた。

海人「俺は、」

なにを言われるのか、身構えてしまう。

海人「俺は、触れたいと思ってる」

「...」

海人「手繋ぎたい、キスしたい、触れたい、俺のものにしたいって、ずっと思ってる」

真っ直ぐに見つめられて、

心臓がどきどき鳴っている。

顔が熱くて、火照っているのが自分でもわかった。

手を握られたときも、今キスされそうになっても

私は逃げなかった。拒まなかった。

なんで拒まなかったんだろう。

勘違いしそうになる。

私、中村さんのこと好きなんじゃないか、って。

頬に添えられていた手が、私の左手に重なった。

はっとして手を払ってしまった。

「ごめん...帰って」

この空気に飲まれたら

この雰囲気に流されたら

たぶん、勘違いしちゃうから。

突き放すことしかできなかった。

中村さんの顔なんか見れるわけもなく

玄関の戸が閉まる音が聞こえるまでソファに座ったまま俯いていた。