レモンサワー[2] (ページ11)

今日:7 hit、昨日:3 hit、合計:30,670 hit

61 ページ11

"俺らのライブ、見にきてよ"

元太くんから電話口でそう言われたのは、つい数日前。

6月1日。

予定空けといてって言われた手前、断る口実が見つからなかった。

中村さんともぎくしゃくしたままで、正直あまり気は乗らなかった。

乗らなかったけど、少しだけ見てみたいと思ってしまった自分もいた。

私の知らない世界にいる2人を。

そのちょっとの好奇心でここまで来てしまった。

会場は大勢のファンの方でいっぱいだった。

会場にはいって、元太くんから送られてきたチケットに書いてある席に向かう。

前だ。これ、世にいう神席ってやつじゃん。

最前列、一番端だけど、ステージが良く見える。

大きなステージ。

開演の5分前には会場内はたくさんの人で埋め尽くされた。

楽しみだね、目合うかな、うちわ見てくれるかな、周りの人がそうやってわくわくしてる会話を私はただ座って聞いていた。

"あの人、なにも持ってないよ"

後ろにいた高校生くらいの女の子たちにそう言われたのが聞こえた。

たしかに。

1人で、ペンライトもうちわも持たずにこの席にいる私って、明らかに変な人じゃん。

ペンライトくらい買えばよかった。

そう思った瞬間、会場の明かりが消えて、歓声が上がった。

7人がステージの中心に現れた。

きらきらしていた。

眩しかった。

目を背けたくなるくらい眩しかった。

途中で元太くんと目が合った。

中村さんも私を見つけてびっくりしていた。

そんな2人を、私はたぶんにこりともせずに見ていたんだと思う。

途中で会場をあとにした。

逃げたくなったから。

知らない世界にいる2人を知りたいと思ってしまったことを。

好奇心だけで目にしてしまったことを。

後悔した。

2人が遠い世界にいるのを痛感した。

うまく言えないけど、私が触れちゃいけない世界だと思った。

交わらないはずの人たちと仲良くなっちゃったんだ。

気づいたら家に着いていて。

ただの知り合いだけど、一緒に飲んだり、一緒に出かけたり、そういうのやっぱり良くなかったんじゃないか。

ファンの方の目に触れたら。

悪意ある人たちに撮られたら。

私が、あのふたりの夢を壊す可能性がある。

そう考えたら怖くなった。