レモンサワー[2] (ページ13)

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63ー松田sideーページ13

衣装替えで引っ込んで、次にステージに上がった時にはAちゃんがいなくなっていた。

お手洗いかな、って思ったんだけど

最後まで戻ってこなかった。

公演が終わって急いで電話をかけたけど出なくて、

しばらくして向こうからかかってきた。

嫌でもわかる。

好きだから。

声だけでも、いつものAちゃんじゃないってわかっちゃうんだよ。

一方的に電話を切られた。

公演中になにかあったのかも。

俺らのファンに限ってそんなことないって信じてるけど

やっぱりほんの一部だけど悪意ある人もいるから

もしかしたら酷いことでも言われたんじゃないか。

変な考えばかりよぎって、気が気じゃなかった。

宮近「元太？大丈夫？」

集中できてなかった俺に気づいて

話し合いが終わったあとにちゃかが心配そうに聞いてきた。

Aちゃんのことを話すと、そっか、って。

それ以上はなにも言わなかった。

ちゃかに話しながらも不安ばっかりが大きくなって、いたたまれなくて立ち上がった。

元太「俺、行かなきゃ」

そう思って、控え室を出ようとした俺を止めたのは

マネージャーだった。

マネージャー「今大事なのはなにか考えて」

俺らより年上で、なにかと口出すわけじゃなく、兄貴みたいにいつも見守ってくれてたマネージャーだけど

今日は、なにか言いたそうだった。

マネージャー「ツアー中、上手くいけばデビューできるかもしれない今、優先すべきことわかってるよね？」

元太「わかってる、わかってるけど」

マネージャー「元太、話しておきたいことがある」

ヘアメイクさんや衣装さんが廊下でなにごとかとざわざわし出したので

マネージャーは空いていた部屋に俺を案内した。

マネージャー「僕は、プライペートにまで口出すつもりはない」

マネージャーの声は優しいけど、声ははっきりしていた。

マネージャー「元太が今誰かのこと大切に思ってるんだなって、ずっと見てきたからそれくらいは気づくよ」

元太「...」

マネージャー「でも、今じゃない」

元太「でも」

マネージャー「言わなきゃと思って、先延ばしにしてた僕も悪かったんだけど」

俺から外れた視線は、きまりが悪そうに宙を泳いでから

もう一度俺の目をしっかりと捉えた。

マネージャー「撮られた」

元太「え？」

聞き間違いであってほしいと思った。