雨の日の話(薬さに) ページ8
今日は雨。現世と同じように移り変わるこの本丸の天気は、鬱陶しく思う時も、好ましく思う時もある。
雨の日の音は好き。
雨粒の音が雑音をかき消してくれるから。
雨の日の外は嫌い。
お気に入りの服を着られないから。
「どうした、大将。1人でぼーっとして」
「雨の事考えてた。好きにも嫌いにもなれないなって、薬研は?」
「俺は…というか刀共は皆好ましくは思えないだろうな。錆びるのは嫌さ」
「確かに」
「でも最近は嫌なだけじゃ無くなった」
「どうして?」
外の景色を眺めていた私はようやく薬研の方を向く。透き通った藤色の瞳に目を奪われながらそう聞き返すと、戸の近くで立っていた薬研が私の隣にあぐらをかいて座る。
「こうして人の身を得て聞く雨の音は乙なもんだ。ちょっとした非日常感っていうのか?それがある」
「わかる、私も同じ理由で雨の音好きだなあ」
「そうか、じゃあ俺が雨の音が好きな理由は大将譲りかもな」
「主の影響ってやつ?」
「そういう事だ」
ふっと笑った薬研はよっこいせと言って立ち上がり部屋から立ち去った。薬研のおかげで、雨の日に思い出が出来た。主の影響、主の影響かぁ。
照れ隠しの仕方、私と一緒だなぁ、なんて
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作者名:零磨 | 作成日時:2022年6月24日 21時