わたし16歳、弟11歳 ページ2
仕事が忙しくてお母さんはしばらく帰ってこられなくなったんだ。とお父さんが嘘をついた。わたしは知っている、お母さんが知らない男の人をお家にいれていること。
そのことにお父さんが夜こっそり、リビングで泣いていること。だからわたしは頷いた。だいじょうぶだよ、とぎこちなくだけど笑った。
お母さんはもう帰ってこないだろう。
でも大丈夫。わたしにはお父さんがいるから。ご飯だってお洗濯だって頑張れる。お父さんを助けたくてたくさんのことを頑張ったけれど、お父さんはそれをとても気にしているようだった。
「Aに紹介したい人がいるんだ」
思いつめたような表情で、お父さんがある晩、お風呂に入ろうとする私を引き止めてそう言った。このとき、私は高校受験が終わったところだった。
「‥‥新しいお母さん？」
「ああ、会社の同僚で‥‥あちらも離婚されていてな、５年生になる息子さんがいる」
「‥‥」
５年生、お母さんがいなくなったのもその頃だった。そのころの私と、同い年の男の子。
「俺にはAの幸せが一番だ。だから、もしAが」
お父さんは私が”お母さん”の役割を担っていることを気にしている。自分よりも何よりも、娘である私を優先しようとしてくれる。
でも、そんなのって。
「お父さんあのね、そんなのっておかしいんだよ」
「‥‥！」
「私ね、ずっとお父さんの力になりたくて家事もがんばったよ。苦手なものも多いし、私おっちょこちょいだけど、お父さんが幸せになることなら進んで手伝いたいんだよ」
お父さんは泣き虫だ。その血を継いでいる、私も泣き虫なのだけど。
「お父さんはもっと幸せになれるんでしょ？」
何度もうなづいて、涙を流すお父さんに私も安堵した。
そして、顔を合わせることになった当日。明るくてお喋り好きなお母さんとは対照的な、寡黙で利発そうな男の子。
「はじめまして、きみがショッピくんかな」
彼が、新しくできたわたしの義弟、ショッピくんだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 143人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：千歳 | 作成日時：2020年3月29日 16時
