わたし17歳、兄23歳 ページ25
お兄ちゃんの部屋から漏れる、いつも違う女の人の声にも、それに知らないふりをするのにももうすっかり慣れてしまった頃。
ある日を境に、明らかに前よりも”回数”が増えた。何回も何回も、何人も何人も。お母さんやお父さんが偶然はやく帰ってきて、ばれてしまうのでは、と私は内心気が気ではない。
そうしたら、お母さんはまた、私を叩くだろうか。
けれど、お兄ちゃんはすごく器用な人でのらりくらりと回避して、決して私以外の家族にはそれを悟らせなかった。そのくせ、いつも扉は少しだけ開いている。
「‥‥」
きっとお兄ちゃんはきっと怒っているのだ。至らない私に、もう、喧嘩の理由も忘れてしまった。お兄ちゃんは、家族といるときだけしか、私の目をみて話してはくれない。
「(家族を守り続ければ)」
このままでいられる。
わたしが辛くても、わたしだけがこうして我慢していれば。
今日もわたしは、お母さんの代わりにもくもくと家事に手をつける。小松菜を切り分けながら、思わず歪んだ視界に頭を振って耐えた。
いつものように甘えたような声が楽しげにお兄ちゃんと階段をおりてきて、玄関の戸が閉まる音がする。
「今日の飯なにー？Aちゃん」
リビングへやってきたお兄ちゃんがにっこり私に話しかける。背後でがちゃがちゃと鍵を回す音が聞こえた。
「シチューだよ、お兄ちゃん」
「ふーん。あ、おかえり〜」
その日、珍しくお父さんとお母さんは２人で揃って帰宅した。お母さんは少しだけ眉をさげて、不安そうな面持ちをしている。どうしたのだろう。
「ただいま。お、今日は鬱おるな。久しぶりにみんなでご飯食べよか」
「今日は生徒会もなかったんよ〜。それより珍しない？いつも忙しいおとんがこんなに早く」
「ん‥‥みんなに話があってな、飯食いながらで」
Aちゃん、ご飯ありがとなと笑みを浮かべるお父さんに、私はぶんぶん首を振る。お母さんは着替えてくると寝室へ消えていった。
「‥‥」
やがて戻ってきたお母さんは手伝うわ、と一言こぼすと私からお玉を取ってシチューを盛ってくれた。ご飯が並んだ食卓、本当に久しぶりだ。
私は少しだけ緊張しながら、お母さんの向かい、お兄ちゃんの隣へ腰掛けた。
「んで、どうしたんよ」
スプーンを手に持ちながら、お兄ちゃんが軽い調子で尋ねる。私は内心ドキドキしながらお父さんの言葉を待った。
「うーん、実はなぁ‥‥お父さん、急に転勤が決まってな‥‥」
「え？それほんま？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 501人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
千歳(プロフ) - めぅか。さん» 初めまして！はい、全くもって無関係です。そちらを意識した訳では無くこの単語の意味合いを持たせたお話のため付けられたタイトルです。ご理解賜りますようお願い申し上げます。最後まで読んでくださりありがとうございました！ (2020年4月9日 21時) (
レス) id: f6f8db44cb (このIDを非表示/違反報告)
千歳(プロフ) - ゆうかさん» 私もしんどい思いをしながら書いておりました…自分で書いておいて「救いはないんですか！！」って感じです…一緒に見守ってくださりありがとうございました！私もrbrさんすごく好青年に書けたな…としたり顔してます！ (2020年4月9日 21時) (レス) id: f6f8db44cb (このIDを非表示/違反報告)
千歳(プロフ) - まもやろたおさん» ありがとうございます・・なんとか完結に漕ぎ着けました・・・！ (2020年4月9日 21時) (レス) id: f6f8db44cb (このIDを非表示/違反報告)
めぅか。 - あの、これのタイトルってま/ふ/ま/ふ/様の曲と同じではありませんか？不快な思いをされる方もいらっしゃるのでは無いでしょうか？作者様はそういうつもりがないのは重々承知しておりますが一応言わせていただいときます。作品としてはとっっっっても好きです！ (2020年4月8日 22時) (レス) id: aacdd32f14 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか - しんどい……(；；)こういう自己犠牲だったり屑だったりするお話好きなので、辛いけど最高でした……登場人物の感情がまっすぐに伝わってきて、凄く感情移入出来ました。すごい……完結おめでとうございます、お疲れ様でした！！(個人的にはrbrさんが凄い好きでした) (2020年3月30日 19時) (レス) id: 8749d17fa2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：千歳 | 作成日時：2019年9月30日 0時
