3 ページ3
「ふわーあ」
「‥‥お兄ちゃん、今日はお母さん休みだからね。女の子連れてこないでね」
ホームで電車を待ちながら、わたしは小声で釘を刺す。兄は呑気にあくびをしながら、わかってると煩わしそうに手をふりふり振った。
「(本当にわかってるのかな)」
不満げな表情を出してしまいそうになって、慌てて気を引き締める。ぷしゅーと音がして、電車が到着した。
「え」
扉がひらいたというのに、中に人はぎゅうぎゅう。え？どうして？と困惑する暇もなく、ホームの人たちがわたしたちを電車へ詰め込む。
「(この時間こんなに混まないのに！)」
慌てて鞄を抱えて必死に足を動かす。まるで押し寿司のように詰め込まれたまま、電車は発射した。がたんごとんと振動が伝わる。
「っ！」
人と人との間がほぼゼロ距離の電車内で、わたしの背後の人の鞄に制服のスカートが引っかかった。上へとめくれ上がっていく。
「！？ ！？(うそ、うそ、どうしよう！手、動かない)」
するり
と、その瞬間に腰を誰かの腕にさらわれる。そのままぐっと引き寄せられて、スカートごとその腕におさえられた。引き寄せられた本人と密着する。
「！ あ‥‥」
「そんな短いスカート履くから」
「お、お兄ちゃん‥‥」
いいから顔下げとき、と言われそのまま胸元に押し付けられた。なんで、なんで。優しいお兄ちゃんに戻ってくれた？と期待するわたしの鼻に、ふわりと香ったのは女の人の香水の香り。
「‥‥」
変わるわけない。わかっている、のに。
「あー△△線が人身事故や、だから混んでるんやな」
呑気なお兄ちゃんの声が、頭上から聞こえて、わたしは瞳を閉じた。
”もうええやろ、このきょうだいごっこ”
あの日のお兄ちゃんの冷たい声が、わたしの頭から離れない。
★
「欝くーん！」
「おつかれ〜待ってたで」
駆け寄ってきた女の子の頬をなでて、笑みを浮かべる。ああ柔らかいな、ええ匂い。
「今日は会議なんじゃなかったのー？急に呼び出して」
「んーごめんな？新鮮なうちにしたくて」
「なにそれー？」
自身の手のひらをみつめて、今朝の感触を思い浮かべる。香ったシャンプーの香りも。真っ赤になっちゃって。本当に。
「いきなりでもええ？ご飯は後でも？」
「いいよ！」
妹と同じセミロングの黒髪をなでて引き寄せる。唇が軽く触れて、そのまま瞳を閉じた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 501人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
千歳(プロフ) - めぅか。さん» 初めまして！はい、全くもって無関係です。そちらを意識した訳では無くこの単語の意味合いを持たせたお話のため付けられたタイトルです。ご理解賜りますようお願い申し上げます。最後まで読んでくださりありがとうございました！ (2020年4月9日 21時) (
レス) id: f6f8db44cb (このIDを非表示/違反報告)
千歳(プロフ) - ゆうかさん» 私もしんどい思いをしながら書いておりました…自分で書いておいて「救いはないんですか！！」って感じです…一緒に見守ってくださりありがとうございました！私もrbrさんすごく好青年に書けたな…としたり顔してます！ (2020年4月9日 21時) (レス) id: f6f8db44cb (このIDを非表示/違反報告)
千歳(プロフ) - まもやろたおさん» ありがとうございます・・なんとか完結に漕ぎ着けました・・・！ (2020年4月9日 21時) (レス) id: f6f8db44cb (このIDを非表示/違反報告)
めぅか。 - あの、これのタイトルってま/ふ/ま/ふ/様の曲と同じではありませんか？不快な思いをされる方もいらっしゃるのでは無いでしょうか？作者様はそういうつもりがないのは重々承知しておりますが一応言わせていただいときます。作品としてはとっっっっても好きです！ (2020年4月8日 22時) (レス) id: aacdd32f14 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか - しんどい……(；；)こういう自己犠牲だったり屑だったりするお話好きなので、辛いけど最高でした……登場人物の感情がまっすぐに伝わってきて、凄く感情移入出来ました。すごい……完結おめでとうございます、お疲れ様でした！！(個人的にはrbrさんが凄い好きでした) (2020年3月30日 19時) (レス) id: 8749d17fa2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：千歳 | 作成日時：2019年9月30日 0時
