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私たちが降り立った地下鉄の駅は、薄暗く(それでもさっきの部屋よりはそれはもう明るいけれど)誰の姿も見当たらない。電光掲示板も真っ暗で、どうやら先程行ってしまったのが最終電車だったようだ。
「A、俺たちの仕事は?」
「! 現世に留まり罪を重ねる亡者を、彼岸へ導くこと、です」
「そうだ、よく勉強している」
1番最初に佐疫さんに教えてもらったことだ。私がこれからしていく仕事の内容である。
「亡者は思いが強く、抵抗してくるものが大半だ。そのために俺たちは武器を所持している」
斬島さんが腰にくくりつけている刀を見せてくれる。彼の愛刀、カナキリである。
「今回、Aが武器を振るう必要は無いが、念のためこれを持っていてくれ」
「あ、ありがとうございます…」
手渡されたのは私でも扱えるほどの小ぶりの刀だった。大河ドラマで見たことがある、懐刀ってやつだ。
「(……?)」
違和感が引っかかったけれど、またぼやけて消えていく。雲の上を歩いているような、モヤの中にいるような。
「ここにはどんな亡者がいるんですか?」
「たびたび路線に転落している者がいるようだ。俺の見立てでは自ら命を絶ったものの仕業ではないかと思う」
「な、なるほど」
自らってことは、電車に飛び込んでってことだよね……?思わず想像してしまってすぐに頭を振り、頭から消す。嫌な想像をするものでは無い。
斬島さんはホーム下を注視する形で、サクサクと歩いていく。私はどうしても足が軽くは動かなくて、まるで連行されているような形だった。
端まで歩いてきてみたが、特に目立ったものは見つけられなかった。しぃんと沈黙を守るホームは不気味なまでに静かだ。
「誰もいませんね……」
「ああ、静かだな」
カツン、
私たちの会話に割って入るようにして、なにか物音が背後から響いた。驚きながらも反射的に振り向く。
「え……」
振り向いた先に落ちていたのは見覚えのあるもの。斬島さんと視線を合わせ、ゆっくりと近づけばそれはやはり携帯電話だった。トーク画面が開きっぱなしになっている。
”絶対に許さないから”
「!」
トーク画面にはその一文だけが写っていた。その文字を認識した瞬間に、なぜか電車の発車ベルが、けたたましくホームに鳴り響く。
斬島さんが繋いでいた手を離し、私を自身の後ろへ庇うとカナキリを抜いた。最終電車はさっき行ったはず、そもそも電車なんて来ていないのになぜ発車ベルが?
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眠い羊ちゃん(プロフ) - お久しぶりです!続き待っていました!😭ありがとうございます!!! (2023年1月26日 20時) (レス) @page14 id: 0bb018741b (このIDを非表示/違反報告)
千歳(プロフ) - sakiさん» こんにちは!前作よりお読みいただきありがとうございます…!そんな嬉しいお言葉…励みになります…!!どうぞ一緒に楽しんでいってください! (2022年2月2日 9時) (レス) id: c5af6075e0 (このIDを非表示/違反報告)
saki - 前作から読んでます!なんかもう……ずっと面白すぎて読み返してます……!更新、無理しない程度に頑張ってください! (2022年1月31日 1時) (レス) @page12 id: 0fd44e5e71 (このIDを非表示/違反報告)
千歳(プロフ) - hona816さん» 前作からお読みいただきありがとうございます・・!リアル忙しく更新お返事共に鈍レスで申し訳ございません。細々とやって参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。 (2021年4月18日 20時) (レス) id: d22da3f209 (このIDを非表示/違反報告)
hona816(プロフ) - 前作も読みました!つい最近5話を読みましたけど、やっぱり面白いです!(語彙力喪失)これからも頑張ってください! (2021年1月12日 19時) (レス) id: b73c4cc110 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千歳 | 作成日時:2020年7月26日 4時