【2.夢と初恋】 ページ5
.
はらり、はらり。
散りゆく花弁が、世界を桃色に彩っている。
風に攫われそうなくらい脆くて、儚くて。
でも、真っ直ぐに地に足を付けて立っている彼女。
とても綺麗だ、とAは思った。
それが、沖田ミツバの第一印象である。
「お疲れ様、Aさん」
鈴の音のような声がする。
稽古を終え、井戸で顔を洗っていたAは、雑に手拭いで拭いてから、顔を上げた。高い位置で結った亜麻色の髪に、優しげな赤色の眼差し。桜色の着物を身に纏った若い女ーーミツバがゆったりと歩いて来る。
「ミツバ、来てたんだな」
「はい。差し入れ持って来たんです。向こうで皆さんと一緒にどうですか？」
「ありがとう。何を持って来てくれたんだ？」
「お煎餅です。お気に入りの」
ミツバは嬉しそうに微笑んだ。
「辛い物は身体に良いと言うでしょう？たくさん買って来たから、お裾分けしようと思って」
「煎餅が、辛い……？」
甘辛い味に塩味。様々な味付けを想像するが、煎餅は「辛い」だと定義する食べ物であっただろうか。Aは、首を傾げる。
「ほら、あちら見て下さい。皆さん、火を吹くくらい嬉しそうに食べてくれるんです」
「え……」
ミツバが指し示した方向に目を向ければ、今まさに話題の煎餅を食べた近藤が、両手で喉を抑えながら、悶え苦しんている所であった。そこに、近所に住む門下生の井上が慌てて、水が入っているであろう湯呑みを手渡している。
「いや、あれは、嬉しいと言うより……」
「Aさん、どうしたんですか？」
「……何でもない」
ミツバは身体が弱く、特に精神的な負荷が病状の悪化に繋がることもあると聞いた。不要なリスクを負ってまで、わざわざ指摘するほどの内容ではないと、言いかけた言葉を飲み込む。それにーー
「私も、その煎餅一つ貰おうか。ミツバの好きなものが、どんな味か気になるな」
「ありがとう。とても美味しいから、きっとAさんも好きになるわよ」
「ああ、そうだな」
ーー恐らく、近藤達もミツバのためを思って、辛いと分かっていても尚、美味しそうに食べて見せたのだ。その隠れた努力をAが無にするわけにはいかない。死ぬ時は皆一緒だ。
「……ん？」
ふと視線を感じて、Aは周囲を見回した。
危害を加える類のものではないが確実にA達を、否、正確にはミツバを、じっと見つめる目がある。Aがそれに気が付いた途端、その視線の主は、ふいと顔を反らした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 54人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
☆辻村春樹☆(プロフ) - ハルさん» 初めまして！コメントありがとうございました。沖田姉弟の場面もこだわって書いている部分が多いので好きになって頂けて嬉しいです。総悟は出番少なかったので徐々に増やしていけたらいいなと思ってます！これからもよろしくお願いします。 (2022年1月6日 23時) (
レス) @page35 id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - 初めまして。沖田が姉上とデェトと言うところが可愛すぎます……。あと文章がめちゃくちゃ好きです。とても引き込まれます。ミツバの印象のシーンなんてもう感動いたしました！これからも応援しています！ (2022年1月6日 22時) (レス) @page14 id: 2a42df9825 (このIDを非表示/違反報告)
☆辻村春樹☆(プロフ) - いくまさん» わ、嬉しい！ありがとうございます！！需要ないよな、と落ち込んでましたが、おかげでこれからも書き続けられます、更新頑張ります！！（嬉し泣きしそうです…） (2021年12月13日 18時) (レス) id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 新作ドタイプです…陰ながら全力で応援させて頂きますね、、！更新頑張って下さい！ (2021年12月13日 17時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：☆辻村春樹☆ | 作成日時：2021年12月12日 20時
