【9.救済】 ページ31
※
「分かった。土方には話すよ、全部」
Aは降参とばかりに両手を上げる。沙々木に勝利して生き残るためには、ぬるま湯に浸って失いつつあった感覚を、全て叩き起す必要があった。ーーだから、土方という男のことを、少し忘れかけていたらしい。彼は危害を加える者には容赦ないが、一度懐に入れた人間には、とことん優しくなれることを。
「とはいえ、何から話せばいいものか……」
「なら、沙々木って男のことから教えろよ。友人だったのは本当なのか？」
「ああ、そうだな。まずそのことから話そうか」
Aは、決して戻らない日々を思い出して、頬を緩める。あの頃は、まだ彼の苦しみも、何も知らなかった。だが、知らなかったからこそ、幸せは確かにそこに存在したのだ。
「沙々木と出会ったのは、もう何年か前のことだ」
※
「ねぇAちゃん、紹介したい人がいるの」
突然呼び出された定食屋。幼馴染みだった菊の希望で、珍しく個室で向かい合うように座った時、何かあると直感した。だが、それが「人」であることに驚き、それが将来を誓い合った相手だと知って、二度驚いた。
「初めまして、沙々木幸次郎だ。津々楽さんの話はお菊から聞いてるよ、宜しくな」
女性で剣が振れるのは凄い。いつか手合わせして欲しい。そんなAを「侍」として尊重するような言葉と共に、差し伸べられた手を、Aは迷いなく握り返した。その後も、菊と沙々木と共に同じ時間を共有するようになり、Aにとって、友達が一人増えたように感じて、とても嬉しかった。それが何回か続いたある日、とある食事処で、沙々木がお手洗いに席を立ったの見計らって、菊は縋るような声で言った。
「……Aちゃんは、幸次郎さんのこと嫌わないであげてね」
「どうしてだ？あんな優しい人、嫌うはずがないだろう」
「実は、幸次郎さんの家凄くお金に困ってて。ほら私には男兄弟がいないでしょ。元々父上のご友人の家だから、金銭的援助する代わりに、幸次郎さんが養子に入ることになったんだけど……」
なかなか馴染めないみたいなの。
それを聞いて、菊が「嫌わないで」と言った理由が腑に落ちたように感じた。彼女は裕福な商家の娘である。その家の跡継ぎとして見込まれたならば、期待も大きいだろう。それが、沙々木の負担になってしまっていたとしたら。そうなれば、毎日肩身の狭い思いをして過ごしているのかもしれないと、そう思ったのだ。
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☆辻村春樹☆(プロフ) - ハルさん» 初めまして！コメントありがとうございました。沖田姉弟の場面もこだわって書いている部分が多いので好きになって頂けて嬉しいです。総悟は出番少なかったので徐々に増やしていけたらいいなと思ってます！これからもよろしくお願いします。 (2022年1月6日 23時) (
レス) @page35 id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - 初めまして。沖田が姉上とデェトと言うところが可愛すぎます……。あと文章がめちゃくちゃ好きです。とても引き込まれます。ミツバの印象のシーンなんてもう感動いたしました！これからも応援しています！ (2022年1月6日 22時) (レス) @page14 id: 2a42df9825 (このIDを非表示/違反報告)
☆辻村春樹☆(プロフ) - いくまさん» わ、嬉しい！ありがとうございます！！需要ないよな、と落ち込んでましたが、おかげでこれからも書き続けられます、更新頑張ります！！（嬉し泣きしそうです…） (2021年12月13日 18時) (レス) id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 新作ドタイプです…陰ながら全力で応援させて頂きますね、、！更新頑張って下さい！ (2021年12月13日 17時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：☆辻村春樹☆ | 作成日時：2021年12月12日 20時
