言の葉の裏/eml ページ26
かちゃり、と教授に貰った合鍵を使ってドアを開いた。恋人でもない私に、あの人はどうして鍵を渡したのだろうか。私は確かに教授の補佐のようなことはしているけれど、頭が特別良いわけでもない。
「教授はなぜ、私に鍵を？」
「貴女の淹れる紅茶が好きだからですよ。」
だから明日は紅茶を淹れにきてくださいませんか？なんて。まあ、別に断る理由もないので私は朝からこうして教授の家に来ているのだけれども。
「お邪魔しまーす……。」
恐る恐る入ってみるものの、人の気配が全くしない。もしかして、まだ寝ているの？あの教授が？私からしてみればエーミール教授はほぼ完璧人間のようなものだ。私はそう認識している。
勝手に台所を使わせてもらうわけにも行かないので、とりあえず彼がいないか部屋を覗くことにした。あぁ、なんだかいけないことをしている気分だ。
ドアノブが金色の部屋をまずみてみようと、手を伸ばした。でも、そのドアノブには掴めず、ドアは勝手に開いた。
「あ。」
「あぁ……もう来ていましたか。申し訳ありません、今起きました。」
まだ眠いのか、吐息が多めの声に少しドキリと胸が高鳴った。着替えはしているけれど髪の毛はぼさぼさで寝癖がついていた。
「教授、寝癖がついていますよ。」
子供らしい姿に笑みがこぼれてしまった。そっと髪に触れて、寝癖を優しく撫でる。
すると教授は驚いたように目を開けて、寝癖を直していた私の手を優しく包み込んだ。
「あ、あの、教授？」
穴が開くんじゃないかってくらい見つめられて頬に熱が集まっていくのがわかる。やっぱり、綺麗な人だ。
「…………紅茶をお願いしても？」
「は、はい。」
教授は何がしたかったのだろうか、と不思議に思いつつ台所の棚に何が入っているかとか説明してもらって、早速紅茶を淹れた。今日はアールグレイにしよう。
リビングでは教授が新聞を読んでいた。それだけで絵になるのだから世の中は心底不公平だ。
こぽこぽと心地の良い音がリビングに響く。それと同時にふわりとアールグレイの香りが充満する。
「……どうぞ。」
テーブルの上に置くと、ありがとう、と彼は微笑んでいたカップに口つけた。
「とても美味しいです。」
良かった、そう思ったのも束の間。
「毎日でも貴女の淹れる紅茶を飲んでいたいものですね。」
「え？」
突然の言葉に時が止まったと錯覚した。この人は何を言っているのか。
朱に染まった顔のまま私その場で固まった。
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作者名：大佐 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年2月5日 15時
