夢か現か/osmn ページ24
からんからん、と下駄が地面を叩く。額には汗がにじんで浴衣の袖で軽く拭った。
金魚が可愛らしくとびはねている絵が描かれたうちわを動かして、大勢の人に流されるように神社の鳥居をくぐった。
今日は夏祭りで、とても楽しみにしていた夏で一番特別な日。特別な日には特別なものを着て。それがお母さんの口癖だった。
本当はお父さんと来る予定だったけれど、お仕事が入ってしまったらしい。
「これ一つください」
「まいどあり！」
一口食べれば砂糖の甘みが口に広がる。ふわふわしていかにもお腹にはたまらない、といった食べ物である。それでも買ってしまうのは子供なのだから仕方がない。
ちりん、と鈴の音が聞こえた気がした。
振り向いてみるけれど鈴なんて見当たらず、周りの人はまるできこえていないかのように、前を向いて歩いていた。
ちりん
また、音がした。それは私にだけきこえてるみたいで。呼ばれてる気がして、私は鈴の音がする方へ歩きだした。
屋台の裏の方からきこえることがわかり、右に曲がった。
すると、どん、と誰かにぶつかってしまった。
「あ……ごめんなさい。」
ふと上を向くと夜にも関わらずサングラスをした人とかちり、と目があったような気がした。
おかしいのはそれだけではなく、この真夏に長袖のスーツを身にまとっていた。
「ええよ、気にせんで。」
男の人の口角が上がる。見た目のわりには優しそうな人だ。そこではっとした。鈴の音がきこえない。不思議に思って周りを見渡した。
「気になることでもあるん？」
「え、いや、なにも……。」
とりあえず戻ろうと思ったけれど再び鈴の音がきこえた。その音は彼の後ろからきこえた。
「……なんだろう。」
男の人の横を通りすぎて私は導かれるように歩いた。楽しみにしていたお祭りなんて気にもしなくなっていた。
私は頭が真っ白になったかよように何も考えられなくなった。
「……いらっしゃい、Aちゃん。」
次のニュースをお伝えします。昨夜○○市○○町で女の子が行方不明となりました。彼女は夏祭りに行ったきり家に帰ってきていない、ということです。警察は彼女の行方をーーー。
流れるニュースをみて、誰かがにっこりと微笑んでいた。
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作者名：大佐 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年2月5日 15時
