言葉は足らずとも/knsm ページ5
ガチャリと玄関の扉が開く。時間はちょうど日付がかわった頃ぐらいだ。
貴「シッマ、お帰り。」
いつもより遅めの帰宅で、作っていた晩御飯はとうに冷めきってしまっていた。
「ほんま、疲れた。」
玄関まで歩いていくとシッマは明らかに疲れた、という感じでげっそりとした顔をしていた。
大丈夫なの？と不安に思いつつ近くに寄る。
「俺今日なんも食えへんわ、ごめん。」
私の肩に顔をのせ、少し体重をかけてくるシッマの言葉はいつもより弱くて。そっと頭を撫でる。
貴「お疲れ様です。ベッドに行きましょう？」
ほら、と声をかけるとシッマは重そうに足をゆっくりと動かした。
ここまで弱りきった彼を見るのは久しぶりです、母性本能のようなものがくすぐられた気分になる。
「A。」
ベッドに横になると、私に向かって真顔で手を広げてきた。
こういうのはちゃっかりしているわね、なんて思いつつ、ベッドに座る。
ムスッとした顔をして、シッマは私を布団の中に引きずりこむ。
貴「ちょっと、シッマ。」
声色が思わず優しくなってしまったのは惚れた弱味なのか、遅くまで働いていた彼に対する同情なのか。
制止の声も意味がなく、シッマは私を力いっぱいに抱き締める。
とはいえ、いつもより力は弱いのだが。
「ええやんええやん。俺つかれてんやから。」
薄く笑って私の首あたりに顔を埋める。なんだか子供らしくて、その姿が愛らしくて不覚にもドキ、と胸が高鳴った。
貴「シッマ、大好きよ。」
体から力が抜けていく彼に一言声をかける。
「せやろ、俺も大好きやからな。」
それだけ言うと彼は夢の世界へと旅立った。
なにがそうなのか、思考回路の回らなくなった彼はしっかりと私と言葉のキャッチボールはできていないのだけれど。
それでも、シッマの言いたいことはわかる。
私たちはお互いの気持ちを理解している。それが堪らなく嬉しくて、なんて幸せだろうと思う。
貴「明日も、お仕事頑張ってね。」
シッマの額にそっと口づけをし、気持ち良さげに寝ている彼につられるように目を閉じた。
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作者名：大佐 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年2月5日 15時
