雪のように/htrnrn ページ18
貴「雪みたいに、なりたいなぁ」
そう言って私は自嘲して、自分を蔑んだ。口からは白い息が言葉とともに吐かれた。
目の前に広がるのは一色に染まった銀世界。手は悴んで動かせなくなった。
「そんなこと、言わないでよ」
怒気がこもったような声に驚いて振り向けば、愛しい人がいた。
きかれてしまった、と苦笑する。それと同時に私のために怒ってくれてるなんて、舞い上がる。
不謹慎だろうか。けれど愛されていると感じてしまえば、わかってしまえばこれ以上、望むことなんてない。
「雪みたいにって、どういうことかわかってるの？」
いつも優しい彼が強めの口調で言った。
貴「……綺麗になりたいなってことだよ。」
そう言ってみれば彼は不満げな顔を見せた。可愛らしくて思わず笑みがこぼれた。
綺麗になりたいって言うのは本当。もっと女の子らしくなって、彼と釣り合えるようになりたいと思っているから。
けれど、本当は違う。私は消えてしまいたいの。雪が溶けて、時が過ぎたら忘れ去られて、そしてたまに思い出される。
そうだったら、なんて幸せなことだろうか。なんて、楽なのだろうか。
貴「……ねぇ、らんらん。」
「……何。」
ぶっきらぼうな返事。けれど、愛おしい。貴方が好きで好きで仕方がないの。
貴「私、私が消えたららんらんは心配する？」
少し、ほんのすこし泣きたくなってきた。私のことを忘れてしまうひとらんを想像して。なんてバカなのだろう。忘れ去られてしまいたいと思っているのに、覚えていて欲しいだなんて。
「心配するよ。心配しすぎてどうにかなっちゃいそう。」
貴「……そっか。」
淡々と彼は言っているけれど、淡白に返事を返すけれど。ちゃんとわかってる。彼がどれだけの思いで、本気でそう言ってるのか。
ザクッザクッとゆっくり、雪を踏みしめて彼は近づいてきた。
どうしたのって、笑いかければ変わらぬ銀世界、でも彼の顔は見えない。
あぁ、そっか。
視界は真っ白ではあるけれど、温もりが伝わってきた。
彼に抱き締められているんだ。なんて、暖かいのだろうか。
「消えないで、俺の傍に居ろよ。」
その言葉が嬉しくて、抱き締められているのが恥ずかしくて。
貴「……傍にいる。ずーっとひとらんの傍にいたい。」
私は目を閉じて彼に身を委ねた。
そして、自分に問いかけた。
ねぇ、まだ消えたい？
その答えなんてはじめからわかっていたのかもしれない。
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作者名：大佐 | 作者ホームページ：
作成日時：2017年2月5日 15時
