魔女のレシピ Ⅲ (ページ6)

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てっぺんを過ぎたゴンドラは、闇色を濃くし始めた空を漂う。
肌寒く感じるはずの風も、火照った頬を優しく冷ましてくれる。

「それに…。私不器用だから気の利いた事言えないかもしれないし。
いっぱいヤキモチも妬くし、独占したくてたまらなくなる。重くなるかも…」

「それ、めっちゃ可愛ええ。
ヤキモチ？そんだけオレが好きって事やろ。そんな事で樹里ちゃんを嫌いになるわけないやん」

逆に嬉しいと、楽しげに香川さんの喉が鳴る。
彼の温もりを全身で感じながら、強く心に思う。
昨日までの私に言ってあげたい。
朝も昼も夜も、切なくて心が千切れてしまうかと思ったけれど。
そんなの全部吹き飛んじゃうよって。

なぜか分からないけど、ポロポロと涙が零れた。でもそれは温かい。

一つ、二つと彼のＴシャツに染みを作ったところで、私の様子に気が付いたのか香川さんがそっと
身体を離した。
泣き顔を見られたくなくて俯いたままでいると、大きな右手が顎にかかった。ゆっくりとやや強引に顔を上げさせられて…。

唇に柔らかくて熱いモノが落ちてきた。
何度も何度も掠めるくらいの軽いキス。
焦れったくて、物足りなくて、無性に心もとなくて。
文句のようなため息がこぼれた。

すると、そのため息ごとすくい取るように唇を塞がれた。
一気に深くなったキスは始まりに似てとても優しかった。
経験値の低い私でもついていけるくらい丁寧だったから、つい夢中になってしまう。
唇が離れていくのが名残惜しかった。

キスの後、おでこ同士をコツンと合わせて、香川さんがいたずらっ子のような瞳で私を覗き込む。
なによ、こっちはすっかり息が上がってるって言うのに。
大人の余裕とでも言いたいのかしら。
ぼうっと浅い呼吸を繰り返す私に、彼は余裕綽々とばかりにニヤリと口の端を上げた。

「樹里ちゃんとのキスってさ、前もしょっぱかった」

「っな…！」

「ピリッと塩味の後はさ、めっちゃ甘い。いつでもどこでも食べたなる」

ペロリと自分の唇を舐めて、艶っぽい低音でそう私を唆すと再び頬を傾けてきた。

さっきまでの悪戯っ子はどこに行ったのよっ！
一体どんなスイッチが入ったんだろうってくらいの豹変ぶりはなにっ！？

ちょ、ちょっと待って！
手、やめてっ。
ここ、観覧車っ！外だから～～っ！！

…かぼちゃの馬車、ならぬ空飛ぶゴンドラに乗った魔女は、シンデレラよろしく王子様と熱いキスを交わしたのでした。

　おしまい。