２ ページ2
なんなのよ、もう…。
時折吹く風が私の髪を舞い上げていく。
もちろん観覧車のゴンドラは大きなものだから壊れる心配なんてないけれど。
日本の形に慣れた身としては、どうにもこうにも恐怖感がぬぐえない。
過度の負荷に耐えかねた私の心臓がとうとうギブアップした。
こうなったらどうにでもなれと、半ばヤケクソになってグッタリ香川さんに身体を預けていると。
「あそこ、見て」
と、遥か彼方を指差す。
夕日が落ちたそこには、紫と群青色とオレンジと。不思議な色の境界線がくっきりと見えた。
「わぁ、キレイ…」
キラキラと光る遊園地のカラフルな灯りも加わって、なんだかとっても幻想的で心に沁みた。
ゆっくり上っていくゴンドラと夕闇が織り成す風景は、少し現実離れをしているから少し怖い。
夢、なんじゃないかって思う。
だけど、私を抱きしめてくれるこの体温は現実のもの、なのよね？
夢か現か。
もう少しこのドキドキの中で揺蕩っていたい。
私はただぼんやりと、広がる紫だけを見つめていた。
「まだ怖い？」
「んー、少し？」
頭の上から聞こえる声がくすぐったくて、でもとっても恥ずかしくって言葉を濁した。
その返事が気に入らなかったのか、うーんと少し唸る。唇から零れる熱い呼気がこめかみにかかる。
やだ。ゾクっとしちゃった。
背中に走る震えが妙に甘くて、私はフッと息を吐く。
すると、また一つ質問された。
「ドキドキ、してる？」
と。
それに関しては間違いなく“ＹＥＳ”だ。だからコクンと頷いた。
でも、観覧車のせいじゃない。香川さんのせい。
ああ、言うなら今しかない。
だって、好きって気持ちが溢れて口から零れちゃいそうなんだもの。
フラれても…たぶん平気。ううん、絶対。
こんなにキレイな風景を見ながら告ることができるんだもの。後悔なんてしない。
好きだから、好きって言うの。ただ、それだけ。
だけど、面と向かって言えるほど度胸はないから。
私は俯いたまま、香川さんの腕の中で少し身体を反転させた。
風に運ばれて楽しげな歓声が聞こえてくる。
ゴンドラの軋む音も聞こえる。
もしかしたら雑音にかき消されてしまうかもしれない。
それでもいい。伝えるだけで幸せだから。
ぼんやりとした視界に入るのは、彼の胸元についたスポーツメーカーのロゴマーク。
彼の肩口にコツンと頭を預けた。
今、伝えよう。溢れる想いそのままに。
「…好き、です」
と。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 70人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちさと
| 作成日時：2019年3月29日 17時
