魔女のレシピ

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何がそんなに気に入らないんだ、この人は。

むぅっと尖らせた口を渋々開けてチビチビとスープを食べ始めた彼の様子に、私のこめかみ近くの血管が切れそうになった。

あれは嫌い。これも嫌い。気に入らないものは見向きもしない。
事前に聞いていたとはいえ、どうにもこうにも香川さんの食事は面倒な事が多い。


彼の体調やトレーニングの状況などを考慮して必要な栄養を充分に取ってもらう。
それだけでも頭を悩ますのに、好き嫌いが激しい彼の食事は気を抜くとすぐに偏ってしまう。


こっちは懸命に頭を絞って考えて作ってるって言うのに。なんなのよ、その態度は。


喉元まで出かかった文句をなんとか飲み込んだものの、頭に血が上り過ぎてズキズキと痛み始めた。
一応顔には出さないように気を付けてはいるものの、無意識のうちにため息が口からこぼれ落ちる。



薬、飲まなきゃ。あぁ、でも買ってこなくちゃ。もうないんだった。


元々頭痛持ちだったわけじゃない。こっちに来てから体調がどうも優れなくて、時々こうして痛むようになってきた。


夏場は日本以上に日が長く、すっかり変わってしまった生活のリズムも原因の一つだと思う。
買い物一つとっても日本とは全然違うし、英語が通じなくて戸惑うこともいっぱいある。
頭痛薬だってちゃんと買えるか物凄く不安。

所用で美沙に電話をかけた時にこの事を話したら、ホームシックなんじゃないの、と笑い飛ばされた。その時はなんて薄情なんだと言い返したけれど。今はそんな元気すら出ない。


戸惑いと不安ばかりの毎日で精神的にボロボロだった。


でも、そんなの言い訳だって分かってる。
冷静に考えれば、私はひどくイライラしていると思う。

ホントならちゃんと「スープが先」の理由をきちんと話して、理解してもらえるよう言葉を尽くすべきだ。納得して取り組んでもらうのが私の仕事なんだから。



だけどそれができない。
彼が私の苦手なタイプに分類される男性だって事も大きい。
『チャラチャラしたモテ男』という先入観が私に壁を作らせる。


絶対に弱みなんて見せられない。


私は痛みをグッと押し殺して努めて冷静を装う。



途中、チラリと香川さんと目が合った。
「お口に合いますか」とか、なんとか。ちょっとは場をつなぐようなセリフの一つでも吐ければいいのだけど。
ひたすら痛みをやり過ごす事しか頭になかった私は、気づかなかったフリして視線を外した。

第７話： 魔女のご機嫌１ shinji→←2

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