かたつむりの輪舞（ロンド） 第１章

第６話 ページ42

本日、『紫陽花』は定休日です。
いつもはのんびり寝坊ができるのに、今日は朝からバタバタです。

それはなぜかというと。
・・・ここにご用があるからです。

はぁ。
オシャレな玄関の前に立って、私は大きくため息をついた。

なにしに来たかと言えば、もちろん“お掃除大作戦”。
掃除なんていらないと、内田さんは遠慮してたけど、結局さと子さんに押し切られた。
なんと言っても、うちはさと子さんがルールだから。

それに内田さん以上に、私は切実なの。
言い付けに背いたら、確実にあのうちから叩き出されちゃう。

私は、すうっと小さく息を吸った。
よしっ！頑張るぞと気合を入れて、ドアのチャイムを鳴らした。

ピンポーン


しーん。


・・・。

・・・ん？
アレ、いないのかな？そんなはずはないのに。
壊れてるのかなぁと、首を捻りながらしつこくチャイムを押してみた。

10回くらい鳴らしたところで、

「・・・うるさい。」

ちょびっとだけドアを開いて、その隙間から内田さんが顔を出した。

なぁんだ、いるんじゃない。
うるさいってコトは、チャイムも壊れてなかったのね。
聞こえてるなら、すぐ出てくれればいいのに。

なぁんて思ったけど。
一応、私。お手伝いさん代理だから。
失礼のないように、

「おはようございます。」

と、しおらしく頭を下げた。
ガラにもなく、神妙な顔で挨拶したのに、内田さんときたら、

「ホントに来たんだ。」

あからさまにイヤそうにまゆをひそめた。

「だって、ちゃんとキレイにして来いって言うんだもん。
うちではさと子さんの言うことは絶対なの。
別に来たくてきたわけじゃありません。」

と、ツンと顎をあげると、
諦めたようにため息をついて、どうぞとドアを開けてくれた。

お腹をボリボリ掻きながら、前を歩く内田さんは、見るからに寝起きって感じ。

あはは。百年の恋も冷めるわね、この格好じゃ。

笑い出しそうになるのを、必死で堪えていたら、内田さんが急に私を振り返った。

「あー、言っとくけど、半端なく汚いからね。」

一言そう前置きして、リビングのドアノブに手をかけた。
大げさね、男兄弟がいるんだもの。ちょっとやそっとじゃ驚かないわよ。

苦笑いをした私を、しかめっ面で一瞥して、ガチャッとドアを開けた。

ところが
その部屋に一歩、足を踏み入れた途端、
・・・絶句した。

覚悟していたけど、まさか、これ程とは。

思わず言葉を失った私を、
内田さんは、文句あるかと、ジロリと睨んだ。

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