かたつむりの輪舞（ロンド） 第１章

第３話 ページ16

サッカーのコーチと言っても、
相手はまだ1年生だから練習は土日だけ。

さと子さんのお店のお手伝いとの両立は、ちょっと心配だったけど。
今ではすっかり慣れて、
子ども達と過ごす週末の午前中2時間が、私にとって大切な生活の一部になった。

「Aコーチ、こんにちわぁ！」

初めてのトレーニングマッチから一週間。
全敗なんて、どこ吹く風。
そんなコトまったく気にしていない子ども達が、
今日も元気にグラウンドに集まってきた。

「こんにちは。ユニフォーム、ちゃんと持ってきた？」

1年生は試合数が少ないし、このまま続けるかどうかわからないから。
ユニフォームは、上の学年からお下がりをもらって使っている。

洗濯したユニフォームを受け取って、衣装ケースに仕舞っていると。

タクのママが、
「ちょっと、ちょっと。」ともの凄い剣幕で近寄ってきた。

「このあいだのトレーニングマッチの後、ヘンな人に絡まれたんですって？
Aコーチ。大丈夫だった？」

私の肩をガッと掴んで、
ヘンなコトされなかった？と、
前から後ろから噛みつきそうな勢いで確認してきた。
その勢いに押されて、戸惑いつつ、

「え。ヘンな人、ですか？」

思い当たる節はないし・・・。
なんのコトを言っているのかと、首を捻っていると、

「私たちが帰った後、フードを目深に被った不審なオトコが、
Aコーチを連れ去ったって・・・。」

ちょうど相手チームに知り合いがいたみたいで、
その人から聞いたわよって、教えてくれた。

う〜ん。
フード？連れ去った？

そこまで言われて、ようやく思い当たった。

あ、もしかして。内田さんのコト？

ヤだ。チラチラこっちを見ている人がいると思ったのは、
彼に気付いた人がいたんじゃなくて、不審者と勘違いされてたからなの。

私は思わず吹き出した。

「大丈夫です、あの人はうちのお客さんで。
たまたま通りかかって試合を見てくれていたんです。
それに連れ去りじゃなくて、うちまで送ってくれたんです。」

くすくす笑いながら、安心して下さいと伝えると、

「そう？それならいいけど・・・。
でも、Aコーチ可愛いから。ホント気をつけてね。」

笑い事じゃないわよと、たしなめられて、
私は、必死で笑いをかみ殺した。

「はい。ありがとうございます。」

と、しおらしく返事をしたものの。
怪しい人物の正体を知ってるだけに、
可笑しくて可笑しくて。

実は、内田選手なんですよって言ったら。
どんな反応するのかな。

・→←　Atsuto side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す