かたつむりの輪舞（ロンド） 第１章

　 ページ13

「行きは子ども達の車に、乗せてもらったんですけど。
先に帰ってしまったので、電車で帰ろうかと・・・。」

内田選手がコソコソ話をするから、
私もなんとなく、声を潜めて返事した。

すると、

「良かったら、乗ってく？」

と、なんでもないコトのように、
ホントにホンットに普通に誘われた。

「えっ？いえいえっ！そんな！！」

とんでもないっ！
サッカーからしばらく離れていたと言っても、
さすがにスゴい人気だってコトくらいは知ってる。

そんな人に送ってもらうなんて、
滅相もない！

慌てて恐縮していると、

「さっきからチラチラ、こっち見てる人がいるから。早く。」

行くよと、そばにあった私の荷物をひょいと担ぐと、
そのまま私の手を引っ張った。

ちょ、ちょ、ちょっと！
手、繋いでるぅっ！

アワアワしながら、動揺しまくる私を、
ちょこっと振り返って、

「ココから駅まで結構距離あるから。
送ってくからさ、なんか食わせてよ。
スゲぇ、腹減ってるんだよね。
女将さんの飯、美味かったし。」

イヒヒッと茶目っ気たっぷりに笑った。
突然の出来事に、びっくりしたけど。
その笑顔はとても人懐っこくて、まるで子どもみたい。
つられて私まで、頬がほころんだ。

「ホントですか？
さと子さん、喜びます。
もし来てもらえたら、
特大盛りにしなくっちゃって張り切ってました。」

「マジ？やった。」

内田選手は、嬉しそうにガッツポーズを見せて、
早く行こうと、もう1度私の手を強く引いた。


『紫陽花』に向かうために、
私を車に乗せると、

すぐに内田選手は

「じゃぁ、早速Aコーチに質問ね。
なにから実践してるのか、聞かせてよ。」

と、このあいだの宿題の提出笑を求めてきた。

うーん、どうしようかな。
ちゃんと言うべきか、否か。

悩んでいる私に、内田選手ってば、
さてはやってないなと、
わざとらしく顔をしかめて睨みつけてきた。

「やってます、やってますけど・・・。」

「けど、なに？」

早く言え、とまたチラ見しながら車を発進。
だけど、実践してますとは言い難い内容に、戸惑いつつ。

「えっと、ですね。
大きな声で挨拶をする。コレをやってます。」

と正直に答えた。

「なるほどね。挨拶は基本だから。
で、他には？」

あ、やっぱり。
これだけじゃダメよね。
わかってはいるけれど。

「いえ、それだけ、です。」

内田選手はえーっ、と
不服そうな顔してるけれど、しょうがないじゃない。

まだそれしかできないんだもの。

　→←　

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す