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ジョンバール分岐点・kwmr ページ9

「ねえ、河村さんの告白断ったってマジ?」

「なんでこうちゃんにまで話が回ってるの…」


出勤して自分の椅子に座るとすぐに、隣の席から身を乗り出した同期が声をかけてくる。興味半分、哀れみ半分のその表情があまりにも近いのでやんわりと肩を押してお帰り願うとストンと腰を落とす。

上司兼先輩である河村さんに呼び出されたのは昨日の昼の事だ。ちょっとおいで、と招かれ人気の無い所で告白を受けた。恋愛的好意を抱いていない相手からの告白なんて断るのが道理。まずはお試し、なんてそんな返品可能な商品みたいなことはしたくない。私の為にも、河村さんの為にも。
この選択肢が正しいかは別としてね。


「じゃあ、せめて理由聞かせてよ。俺も気になるし」


それでもなお引き下がらないこうちゃんのその渋沢栄一並の姿勢には私もビックリだよ。なんとか穏便に事を済ませようと頭を働かせる。興味が無い、は嘘になる。河村さんの人間性は別に悪くないし、人として尊敬できる。しようと思えばきっと恋もできる。別に今はそんな気持ちが無いから振っただけだ。
さあ唸れ、私の脳細胞。気まずい先輩や目の前の友人のような東大とまでは行かずとも、それなりの高学歴ではある自負はある。


「うーん…神と恋愛できる?」

「種族差の問題かあ」


「君と同じく二足歩行の畜生動物なんですがね」



後ろから振ってきた声に思わず首を竦ませた。隣のこうちゃんも同じポーズをしているから、やっぱり河村さんの気配を消す能力は凄いんだと思う。
ここが漫画ならギギというオノマトペがつくくらいのぎこちなさで後ろを振り向くと、眉をあげて不満そうな顔をした先輩がいた。うーん、とても気まずい。三十六計逃げるに如かず。来たばっかりだというのに鞄を手に取り立ち上がろうと腰を浮かすと肩を押されてまた椅子へと逆戻り。



「いっけね、俺福良さんに用あるんだった!じゃあな!」

「こうちゃん!」

「僕らの認識に相違があるようですね。相互理解の為に少しお時間頂きたいのですが」

「遠慮させて頂くという選択肢は…」

「提示する必要性が?ほら、福良があんなにも面倒な顔をしているので早く済ませてしまいましょう。まずは齟齬を正した後に改めて告白を…」

「帰らせていただきます!!!」



新しい玩具を見つけた幼児のように、その美しいかんばせを綻ばせながら彼は笑った。きっと私のどこかに勝算を見い出したのだ。そうじゃなきゃこんなに鳥肌がたつはずがない!

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作者名: | 作成日時:2021年9月10日 0時

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