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ケスラーシンドローム・ymmt ページ6

ゴミが落ちていた。

日本には外国と違って道端にゴミ箱が無いからゴミは捨てる、と言うよりも落ちていることが多い。まあ外国はゴミ箱があってもポイ捨てすることが多いけど。外国はゴミを拾う事を仕事にしている人がいるから拾うことは逆に仕事を奪うことになって良くない、らしい。本当かは知らないけれど、そんな話を聞いたことだけある。

知らず知らずのうちに下がっていた目線を少しだけあげれば、忠犬の銅像の影に隠れたペットボトルや、花壇のレンガの上に持って帰る事を忘れたように見せかけたプラスチックカップ、道路で風に吹かれるがままのコンビニの袋。一つ気がつくとどんどん目について、世界が丸裸になるようだ。

僕の後ろで立ち止まったAはボンヤリと眺めていた。



「ゴミがいっぱいだあ」

「そうだね…残念なことだけど」

「あー、あ。勿体ない」


そっか。君はこの景色を見て勿体ない、と思うんだね。現代社会に摩耗された僕一人だけだと素通りするような景色に足を止める小さな背中は僕の好きな女の子。

幼馴染で宇宙ギークの不思議ちゃん。ホワホワと不安定に歩きながら、焦点の合わない目をクルリと動かす。風に飛ばされる風船のように歩き出す前にその手を繋ぐと体も一緒に引きずられる。

前だけを見てスタスタと歩く彼女には視界に映る全てがゴミに見えるのかもしれない。ペットボトルも、カップも、コンビニの袋も、人間も、この灰色の高層ビル群も。
幼少期の命に関わる大手術によって宇宙飛行士への夢を閉ざされたAの目には僕がどんな風に映っているのか気になって一度だけ聞いてみたことがある。返事は単純明快、別に、の一言。それでもまだ彼女の隣にいるのは僕の意地で他の男への威嚇でどうしようも無いエゴでなおかつ時間のかかる作戦だ。


クシュン、と小さなくしゃみをした彼女に上着をかける。秋も深まる頃だ。頭上から降ってきた落ち葉がゴミを覆い隠す。


今のAにとって、僕はただのスペースデブリかもしれないけれど。いつかこの布石が連鎖を起こしてその目線を強制的に合わせてあげるから待っててね。

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作者名: | 作成日時:2021年9月10日 0時

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