ハイディンガーのブラシ・izw ページ2
「一条さーん。俺と付き合わない?」
「は?君と?恋愛感情を抱いていない上司相手にファンから刺されるような危険を犯してまで蜜月な関係性になりたいと思うことが有る訳ないんだ、こっちは日々の人生を送るのに必死だから高額納税者の気ままな発言に振り回されてる暇は無い」
「そこまで言う?結構傷ついたんだけど」
「損害賠償でも請求するつもり?権力と金と名誉はいくらあっても足りないと言うけれども、それを体現化するような人物と共に顔も知らない他人の人生を豊かにする手伝いをするなんて…ああクソ、転職サイトからメールが来ない…」
一条。俺と同い年の女。東京大学経済学部。
ライター達が書いた記事を全て纏めて俺に渡したり、テーマの振り分けなどを行う編集長(つまり俺ね)直々の部下。ネガティブ思考。
話しかけると直ぐに眉を寄せる。これは別に嫌がってるわけじゃなくて癖。そのせいで誤解されやすい。喋り方が呪詛みたい。怖がられてる。言い回しが独特。損な人生を送ってる奴。
俺の…想い人。
残念ながら、色良い返事を貰ったことは一度も無いけど。
「…これだからマジョリティー重視の温和的牧歌民族の皮を被った多数派の圧力に何もかもを頼って自らの厭うような労働を対価無しにやらせるような奴らは嫌なんだ」
「腹減ったし飯行こ?いい店知ってるんだ」
「どうしてそんなに人の話を聞かないんだ君は…!」
手を引いて日差しの当たる外に連れ出しても、もはや文句を言うだけの機械と化す。
まあそれもきっと時間の問題だと思うので。毎日毎日愛の言葉をまるでヒトラーの電動ノコギリのように繰り出せば、半ばノイローゼのような顔をする彼女。布を切り裂く音と共にキスを落とすと、絹をさくような悲鳴がもれた。あー、本当に可愛い。
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作者名:狭 | 作成日時:2021年9月10日 0時