【QK】門前【ini】 (ページ5)

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手がページ5

「おはようございます。チェックお願いします」

「うん、おはよう」

「それ終わったら一戦やりましょう。お菓子あるんで」

かかる

山本は思わず飲んでいた水を吹き出した。金古が伊沢以外の名前を自主的に発すると驚天動地も可愛く見える。いろはすがズボンを濡らすのも気にせずに二人を凝視すれば顔面に衝撃が走った。河村の投げたボックスティッシュだ。カーペットに染みる前に早く拭けということだろう。数枚手に取るも気になるのはあの二人だ。乾が物怖じしない性格でも金古は偏狭なタイプである。福良を筆頭として、まだ付き合いが下手である。仲の悪さは多少改善したものの、福良からするとまだ苦手意識が残っている為に仕事以外の話ができない。例え趣味や日常の話を振ったとしても、金古から帰ってくるのは不誠実な賭けの話ばかりだから薮はつつかぬ方が良いのかもしれないが。そんな金古と言葉のキャッチボールを二往復させた乾は、山本の中ではノーベル賞をあげるレベルの勇者である。山本は金古と会話がスムーズに行えた過去が無いため、素直に乾を尊敬した。独特のテンポと濃い話題についていける人間がいるとはと思わず感心してしまうほどには、山本は金古と話したことが無い。

「賭けますよね？フリスクでいいかな」

「じゃあミンティアで」

「三人でやんの？俺さあ、三人の時のまだルールよく分かってないんだけど」

「も少し知識に貪欲になりなよ」

「伊沢さんにそれ言えるの、金古さんくらいですよ」

「ア待って、山本いるじゃん。山本ォー！今暇ーー！？」

「…え、僕！？」

「お前、麻雀できるの？」

「多少は…」

キャップがあって良かった、と山本は思った。仮に飲んでいる途中だったら、また吹き出すかもしれないから。これ以上ティッシュの消費量を増やすのは少しいただけないし、ジーパンについた染みはまだ乾ききっていない。山本が不自然なポルカドットのズボンを周囲に見られないように歩きながら座卓に座れば、金古は目を爛々と光らせてこちらを見ており、並々ならぬ執念を感じる。

金古は山本をよく知らない。だから山本が東大生でないことも、麻雀をできることも、誘えばやってくることも知らなかった。しかし金古は勝負を行える相手が好きである。そして、人間は好きな相手のことをよく知ろうとする。だから、伊沢が勝利を収めるこの一戦以降、金古と山本の距離はグンと近づくのだが、それを知る者はここには居ない。