【QK】門前【ini】 (ページ19)

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襟をページ19

「まずは説明だろ！」

「目的だけでも……」

「2人が行きたがってた所」

正す

金古にオフィスから引っ張りだされた伊沢は軽く伸びをした。春が深まってなかなか眠気との勝負に負ける時期なのに、無知のまま長時間列車に乗るのは良くない。だがしかしこの女は金古であるがゆえに居眠りをしていると気持ちよさそうだなと判断してそのまま列車に残していくのだ。しょうがないので伊沢と乾は眠くなったら互いをどつくという少々乱暴な方法でなんとか目を覚ましていた。既に4度目の乗り換えによって、列車は一両編成の田舎を走るレトロなものとなっている。三人しか乗客が居ない箱がガタリと音を立て金古が立ち上がる。

駅員もいない、自動改札機もないホーム。バーを回して外に出ると、驚く程に何も無かった。スタスタと歩き始める金古を追いかける男二人は顔を見合わせてため息をついた。
30分も歩いて見えた花屋に入った瞬間、乾はホッとため息をついた。舗装されていない砂利道を歩くのは苦手なのだ。店員の老婆は金古の姿を見るなり何かを口走るが、あまりにも方言が酷くてなにも聞き取れない。伊沢はオイオイ、と口角をひきつらせた。ここは寄り道のようで、花束を購入した金古はまた歩き始める。乾は老婆に一礼をしたが、既にこちらに視線はなかった。

「一時間コースかな」

伊沢は肩を竦めた。金古の付き合いの長さに関してはこちらに軍配が上がる。案外健脚な女はある日唐突に歩いて九十九里浜まで行った前科があることを伊沢は知っていた。
墓地にたどり着いた時、乾は眉を寄せた。墓地に行きたいなど言ったことも無い。まさか伊沢さんが？伊沢も眉を寄せていた。乾とは少し違う様子に、どうしたんですかと囁くと、伊沢も小さな声でやらかしたかもしれないと返した。

「俺の予想があってるなら……ココ、御両親の」

「墓だよ」

微笑む金古に伊沢は背筋が凍った。金古の親に会いたいと言ったのは乾だ。それはもちろんケジメとしてだから、金古の中では生者だろうが死者だろうが関係が無いのだろうがこちらにとっては大問題である。いきなり半日かけてきた場所が彼女の親の墓。乾はどんな顔をしているのだろうか。恐る恐るそちらを向くと何故か重々しく頷いている。

「確かに。挨拶は大事ですもんね」

「したがってたもんね」

「だよなぁ……お前らそうなるよなぁ……知ってた……」

伊沢が天を仰ぐと、東京とは全く違う澄んだ青空が広がっていた。