【QK】門前【ini】 (ページ18)

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磯の鮑のページ18

「そうか、そんな時期か」

「言質は取ってますからね」

「楽しそう」

片思い

伊沢はペンを探そうとデスクを見回す。これかなと筆入れを渡してきた金古に礼を言えば、そんなものは要らないからはやくサインをという顔をされた。どこまでも一本の思想を元に行動する女にため息をついて＿＿＿＿＿捻れて拗れたその一本を求めて助けられたこともある身からは強くは言えないが＿＿＿＿ノックを押した。白い紙を飛び出た芯でなぞればワクワクするように乾の表情も変わる。

「はい、ご所望の品」

「ありがとうございます！…見てー！伊沢さんがサインしてくれた！！！」

伊沢がサインをしたことで、あとはもう提出するだけの状態となった婚姻届を一生の宝物のように抱えた乾は満面の笑みを浮かべて同級生の元へと突撃しに行った。その後ろ姿を見つめる金古に声をかける。

「おめでとうは言わないからな」

「伊沢、結婚反対だった？」

「お前ね、知らないと思うけど結婚てのは普通こう、絆を深めてこの人とは長い間一緒に居られるな！って思ってするものなの」

「知ってるけど」

伊沢は天井を見上げた。世の中には諦めた方が良いこともあると学んでいるはずなのに、金古のこととなるとどうしてか口出しをしてしまう。それはもう癖だろ、と言われたこともあるから開き直った方が良いのかもしれない。
金古は心底不思議そうに首を傾げて伊沢の隣に座った。見通しの良いオフィスでは、乾の動向がよく見える。同期の元へ向かったハズの乾はいつの間にか須貝に豪快に寒色に変わった頭を撫でられていた。

「本当に犬みたいだな」

「伊沢と結婚すれば良かったのかな」

「…は？」

「アレ、違ったか」

さて、この人間初心者をどうしてやろうか。
腕を抱えて優秀な脳みそを猛回転させた伊沢は、諦めるという選択肢を放り投げる。結局この金古という女は完全に自己中で、それでいてバカで、でも頭は回って。勿体ないと思うような個性が強みである。そしてそれを見出し世間に出している伊沢としては、責任を取らなくてはという自戒があるのだ。

「乾の前で言うなよ」

「うん」

「そもそも、俺とお前の間に恋愛感情は無い。今までも、これからも、絶対絶対絶対無い！」

「長い間やっていけると思うよ」

「…こういう関係を人は相棒と呼ぶんだよ、バカネコ」