1096 【花巻貴大】 (ページ8)

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初めて体を重ねたのも、蒸し暑い真夏の日だった。

高校２年生になった俺たちは、いわゆる文理選択でクラスが離れた。２年生以降クラスが離れるのはわかりきっていたから覚悟はしていたものの、寂しいものは寂しい。
だから、と言っちゃなんだが、会えば会うほど、話せば話すほど、一緒にいればいるほど、もっともっとAに触れたいって気持ちが膨れ上がっていくものだから。

「ねぇ貴大、今日、家誰も帰ってこないんだけど……来る？」

彼女の提案は、あまりに魅力的で。一つだけ開けたシャツの襟元からのぞく白い肌が、やけに眩しく見えて。

「……俺男だよ、その誘い方はどうかと思うけど、」
「貴大だからいいかなぁって」

遠回しに警告したけど、わかってるんだかわかってないんだか。肩を竦めた俺を見上げたAは、少し躊躇いがちに言った。

「あの、ほら……そういうつもり、ってわけじゃ、うん、ないって言ったら嘘になるかもしれないけど、その、」
「はいはいわかったわかった、怖いならちゅーくらいで止めといてやるって」
「っ、」

熟れたリンゴみたいに真っ赤な顔して黙り込む彼女の、白い首筋を汗が伝ったのを見て、あ、我慢出来ないわ、ってそう思った。それから、ちょっとだけ不安そうに俺の手を握ってきたわけで、これで我慢しろって方が無理。

「……ごめん、無理かも」
「うん、……大丈夫」

ちょっとぎこちない雰囲気も、今思えば懐かしい。
あの後俺は、結局Aを抱いた。柔らかくて、同じ人間とは思えなくて、それと、すごく可愛かった。

あれから数度体を重ねたけど、その度に、Aのことが好きになる。頼りない細い腕で俺を抱きしめて、震える声で俺の名前を呼んで、儚げに微笑むAを手放したくないって。

――あのときは、そう思っていたけど。