忘れな草の恋 10

10-12 5分が10分に ページ12

■ A ■

6:00PM前に兄が一人で家に帰って来た。

ｽｱは今友達と会っていて、待ち合わせの場所に直接来る事になっているみたい。

兄に今日は何をしていたんだと尋ねると、“まぁ色々？韓国巡りとか？”と言っていた。

全てが疑問系だったのが気になったけど深くは詮索ていない。

ｺｰﾋｰを淹れてﾘﾋﾞﾝｸﾞへ戻ると、兄が座れと言って対面の席を指差した。

何だろうなと疑問を抱きつつ席に着く。

『昨日何かあったらしいな』

それか。ﾘｸのアホぅ…余計な事を…。

『ﾘｸに何を聞いたか知らんけど何もないよ』

私が嘘を言うと兄は手を組み、そこに顎を乗せて目を閉じた。

細くて長い溜め息をついた後カｯと目を開いたが、その目の大きさが半端ない。

『…言えへんか？』

今の私は、まるで蛇に睨まれた蛙状態だ。

目を逸らしたくなるけど、今回は私も負ける訳には行かない。せめて病院で検査して貰うまでは話すつもりはない。

目を合わせながら暫し沈黙になる。そんな中、携帯が鳴った。

あの…と遠慮がちに声を掛けてみれば、兄が無言で頷く。

救われた気分で携帯を置いてあるｿﾌｧまで行くと、携帯画面に表示されていたのはｳﾆｮｸの名前で、更には電話だった。

おぅ…このﾀｲﾐﾝｸﾞでか…。

そうだった。6:00PMに仕事が終わるって言うてましたやん…。

軽く咳払いをしてから電話に出た。

［あ、良かったぁ。出てくれないかと思った］

出るのが遅くてごめんと謝ると、ｳﾆｮｸからは出てくれただけで嬉しいという言葉が返って来た。

そんな事よりも、ｳﾆｮｸの声が弾んでいる気がする。嬉しいとかの弾みじゃなくて―、

「今、走ってるの？」

［うん。何かね…走ってる］

そう言って笑ってるけど、急いでるんじゃないのかなと思って、電話してて大丈夫なのかと聞いた。

［大丈夫！あの…今日会えないかな？会って話しがしたくて］

「あ〜…今日はこれから出かける予定が・・」

ﾁﾗｯと兄を見ると静かにｺｰﾋｰを飲んでいた。

［…それ何時から？］

「7:00PM過ぎには出ると思う」

［その前に少しでも良いから会えない？5分でも良いんだ］

ｳﾆｮｸはその5分の為に走ってるのかと思うと断れず、私は分かったと返事をした。

［本当？！じゃぁ急いで帰るから！］

「走ってるのにまだ急ぐの？」

［ん…えっと。5分が10分になれば良いなと思って・・］

そう耳元に入って来て……何だろ。

今もの凄くｳﾆｮｸが可愛いと思った。

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