Time goes by

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「・・・分かった。
来年の神山の誕生日は、
一緒に豪華なケーキ食べるって約束してくれるなら」


「・・・」


何も返事してへんのに。


「来年だけやなくて、再来年も、その次もな」


藤井くん、勝手に決めてしもた。


「家まで送る」


「けど、ゆう、松本さんが、」


「俺は今日は神山と過ごすって決めてん」


「・・・そんな」


「急用なんか嘘やろ？
嘘つくと、猫の髭出来るから分かる」


「猫の髭？」


聞き返した時に、お会計が終わったて、

店員さんが、レシート返してくれはった。









カフェを出た途端、
むせかえるような夏の匂いに包まれた。

じとっとした空気が肌にまとわりつく。


階段を降りてる途中。
　

「りゅうくん。
そんな子のどこがええん？
いろんな大人の相手して、汚れてるねんで？」


背中に投げかけられた優希の言葉に、
思わず、足が止まる。


いろんな大人の相手なんかしてへん。

俺は、おかんが離婚されへんように。


それだけで、

お父さん、そう呼ばなあかん人と、
関係を続けてきた。


意味が分かるようになってからは、

それが正しいのか、何度も何度も自問自答しながら。


おかんのためやなくて、保身のためなんかもしらん。


罪悪感と嫌悪感で、時々、気が狂いそうになるねん。


「友達やって思てたのに。
うちのお父さんのことも、誘惑してっ。
りゅうくんのことまで。
なんで、智洋はうちから全部奪うん？」


優希から、久々に名前を呼ばれたのに。

こんな場面やなんて。


優希は何か勘違いしてる。


優希んちのお父さんを誘惑なんかした事ない。

あの時はおじさんの方が、俺を・・・


必死で逃げたし、未遂や。


まさか、夏祭りの夜のこと、優希が知ってるなんて。


動悸がしてる。


「神山、行こ」


藤井くんが、もう一度、俺の手首をきつく掴んで、歩き出した。



階段駆け降りて、

痛いぐらいの日差しを避けて、
人目から逃げるように、路地裏を選んで。

無我夢中になって、走った。


いつの間にか、鬱蒼とした樹々に囲まれた、神社まで来てた。


「藤井くんが走るとこ、初めて見たかも」


息切らしながら言うたら、藤井くん、


「確かに。こんな必死に走ったん、久々やな」


そう言うて、笑った。


「ふはっ、サッカー部のくせに」

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