Time goes by

青空と、彼。1 ページ1

緑side


この世界の何もかもに意味なんかないと思ってた。

清らかで美しいのは、ほんの上澄みだけ。


少し踏み込めば、
どろどろに澱んで穢れた世界。


そこに足を取られて、
身体ごと引き摺り込まれて。


とっくの昔に、

やり直しなんか出来へん、
取り返しのつかへんとこまで落ちてもうた。


俺のせい、なんかもしらん。


どこの属性においても、
異質で特異で、馴染まれへん。


そんな存在。


俺がいつも一人きりなんは、当然。



今日も空は高く、
雲は気ままに流れてゆく。


昨年、女子生徒の飛び降りがあってから、


校舎の屋上への扉の前には、
立ち入り禁止のロープが張られてる。


けど、昼休みの俺には、
ここにしか居場所がないねん。


メロンパンを頬張る。


味なんか分からへんけど、
今は昼飯の時間やから。


泣かんようにしよう。

絶対に泣くもんか。


平気。平気。平気。


この檻からやって、
あと８ケ月で脱出出来る。


正々堂々、
卒業という免罪符を手にして。


そしたら、
俺は生まれ変わるんや。


この閉鎖的な田舎町を出て、
過去の自分を捨てて、

別人になって。


そこから人生をリスタートさせる。


妨害されても実行する。


もう決めてるねん。



メロンパンの塊。

最後の一口を無理に喉の奥に押し込んだ時。


背中に、

ギィーっと錆びついた、
扉を開く音が聞こえた。


「お？先客？」


俺だけの居場所に邪魔者が侵入して来た。


同級生に会うと、自然と身構える癖がついてる。


「確かさ、神山くんやったよな？」


・・・藤井流星。


ずば抜けたルックス。

第二ボタンまで外した、
真っ白なカッターシャツに緩んだネクタイ。


明るい色のペンで落書きしてある上履き。


派手な髪色の、長い前髪から覗く、気怠そうな瞳。


片田舎の幼い学生たちの群れの中において、
彼はまた、俺とは別な意味で異質や。


噂話は嫌でも耳に入ってくる。


高3になった、この春、

両親が海外赴任することなって、
受験も近いしってことで、

叔父さんの家に下宿することになってんて。


この町唯一の総合病院、
藤井医院の院長が、その叔父さんや。

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