3話 ページ3
震える足で、座席から降りる。数秒経つと、小学生の女の子たちがパニックを起こしたように泣き始めた。近寄れば、私と同じように口の中を切っているのか、口の中は真っ赤だ。
私が近寄ると、怯えるように見つめる。近くに座っていたおばあちゃんは、呆然としたように辺りを見渡していた。
衝動的に、義父の言葉が頭をよぎる。
《 危険なとき、頼れるのは頭と力だけ 》
バスの一番後ろの座席の窓は、ヒビが入っていて、個性を使えば簡単に崩れる。脱出口は、あそこだけ。
ブルブルと震える唇を舐めると、やっぱり血の味しかいない。
「 お、おに…… 」
ヒュッと息を飲む音が聞こえた。
「 お姉さんの、個性？ 」
「 そうだよ、どう？ 」
安心させるように笑いかける。笑顔、笑顔を作れ。安心させる言葉をかけるんだ。個性のせいで、八重歯は鬼のように鋭く生えていく。
腕は、昔話の赤鬼のように堅く、肌は赤く変色していく。バキリッと、骨の骨格が変化した。
「 さぁ、みんなで帰ろう。此処から出て、お家に帰ろう 」
有無を聞く前に、女の子を抱き上げた。時間はない、早く、早く！！
窓ガラスを粉々にするように、鬼の腕で殴れば跡形もなく砕ける。腕で女の子を隠すようにして、バスの淵に足をかけて降り立てば、野次馬が集まっていた。
「 おい、大丈夫か！？ 」
「救急車と警察を！！ 」
あと、4人だ。
さっきの要領で、残りの女の子達を助け出す。
「おばあさん、行こう 」
「待って、助けてっ！！ 」
おばあさんが、必死で運転手さんに声をかけている。バスの座席で体が潰れてしまっている。
「私の、息子なのっ 」
その言葉と同時に、運転手さんを潰していた座席を、最大限の力を込めて引っ張った。布の避ける音とパイプが曲がる音。激しい血の匂いと共に、座席が吹っ飛ぶ。
火事場の馬鹿力とは、この事だ。運転手さんとおばあさんを両腕で抱き上げる。
「ありがとう、ありがとうっ…！！ 」
しっかりとアスファルトに両足がついた瞬間、血の匂いと痛みで、両膝をついてしまった。おばあさんが私を抱きしめながら涙声で、お礼を言う。
「 本当に、ありがとう 」
最後の言葉を聞き終わった瞬間、私はおばあさんの肩に頭を預けて意識を閉ざした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：チキンカツ | 作成日時：2018年6月3日 13時
