走馬灯 ページ26
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ポテトサラダと醤油で煮た茹で卵、そして南蛮漬け。冷めても美味しいおかずセットは伊作くんたち六年生用の定食だ。
一息がつき、梟が静かに鳴き出す暗闇の中、火傷と傷痕の痛み止めを貰うために保健室へ行くと、仄かに明かりがついていた。中に入ると、竹谷くんと他の保健委員たちの子がいた。伏木蔵くんや乱太郎くん以外は顔を強張らせた。
「 伊作先輩から頼まれた薬は出来てます。」
「 ありがとう…、竹谷くん、火傷? 」
乱太郎くんや伏木蔵くんに手を引かれ、温かい部屋の中に入る。他の二人の子たちは驚いたように、私の様子を伺っている。
「 えぇ、心配かけたくなくて。」
「 火傷は用心しないと駄目だよ。一生残って、絶対に消えやしないから。」
火傷の痕を掻くと、竹谷くんが何かに気づいたように私の掻いている場所を凝視する。バレたかなと不安に思い、帰ろうとすると、土を蹴る音とドタバタと騒がしい音が響いた。
「 みんなっ、緊急事態だっ!! 仙蔵がっ……!! 」
穏やか空気が一変した。血の臭いが一気に部屋に充満する。ガヤガヤと耳障りな単語や音、包帯が擦れる音がした。私も伏木蔵くんに従って無我夢中に治療を手伝った。
立花くんは二の腕を深く切られていて、多量出血をしていた。他の六年生も骨を折ったり、頬に傷があったりして痛々しい。
「 大丈夫か、仙蔵? 」
『 だ、い、じょうぶ…? 』
「 痛くはない? 」
『 いたくは、ないだ、ろ? 』
心臓が、心が痛い。血管が浮き出ているように鳴り止まない不快な心音。頭の中を、走馬灯が駆け巡る。
『 おれも、後から行くから。待ってて。』
「 必ず、助けるから。」
『 愛しているよ。』
彼等の会話の中に、あの人の声が聞こえた。確かに聞こえたんだ。身体が熱い、痛い。苦しい、逃げたい。でも、助けなきゃ。
「 Aさん、包帯を貸して…、…Aさん? 」
「 ……ぁ、はぁっ、」
握りしめていた包帯は手汗で濡れて、使い物になんてならなかった。みんなは私よりも平然としていた。これが、この時代の、忍びとしての当たり前なんだ。
出て行かなくちゃ、私は場違いの人間だったんだ。
「 伏木蔵くん、私は出て行くよ。」
「 えっ、でもお薬!? 」
「 自分で何とかするから。調合してくれてありがとう。」
小鉢を持って、白い息を吐いて部屋へと戻る足を急がせた。
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チョコパイ - 続き気になる、更新待ってます! (2021年4月28日 4時) (レス) id: 451b0d7f40 (このIDを非表示/違反報告)
あみん(プロフ) - とても面白いです!!読みやすいし!!!応援しています!! (2021年1月5日 12時) (レス) id: ace2dffc29 (このIDを非表示/違反報告)
NARUTOKUN(プロフ) - ふうちゃんさん» いいえっ、いくらでも感想下さい笑笑。私の元気の源はですよー!! (2018年12月25日 23時) (レス) id: 371427a5bb (このIDを非表示/違反報告)
ふうちゃん - なんかコメント多くてすみません!伊作くんとのハッピーエンド楽しみにしてます、これからも頑張ってください! (2018年12月20日 20時) (レス) id: bc1f7a9f27 (このIDを非表示/違反報告)
チキンカツ - ふうちゃんさん» コメント、何回もして下さってありがとうございますっ。精一杯最後まで書ききって伊作と幸せ者にしてあげたいです!! (2018年12月2日 0時) (レス) id: 4c755f6345 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チキンカツ x他1人 | 作成日時:2018年11月3日 23時