不本意です (ページ33)

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嵐の前の② ページ33

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(着信音)

「ん、はい、長谷です…」

「A？ごめん寝てたよね？」

「ん…兄ちゃん？なした？」

「ごめん起こして」

「今何時…」

「1時かな、ごめんほんと」

「大丈夫。なしたの？」

夜中、兄ちゃんからかかってきた電話。
酔っ払って、とかなら次会った時一発お見舞いしよう。

「お母ちゃんが倒れて。いま病院運ばれた」

「…は？」

「仕事終わっても連絡返ってきてなかったから、変だなと思って。見に行ったら倒れてて。それで救急車呼んで運ばれた」

「…生きてるんだよね？」

「うん、今のところ。…来れる？」

「…確認して連絡する」

「うん、無理はしなくていいから。来れたらで大丈夫」

時間が時間だから、誰に連絡していいのか、そもそも連絡していいのかも分からなかった。

「今のところって、なに…」

電話を切った後も心臓がうるさくて仕方がなかった。

そのまま一睡もできずにドームへ向かった。

．

「あほか！なんで来たん！すぐ帰れ！」

「チケット取ったんか？」

「一応」

「何時や？間に合うんか？」

「試合終わってからすぐ出れば…」

「阿呆！試合なんてまだなんぼでもある！」

「で、でも」

「試合は大丈夫やから。お母さんのところ行こう。な？」

情けないくらい気が動転していた。

監督コーチがえらく心配そうな顔をしていて、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら空港へと向かった。

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「長谷さん、ですね…ICUの患者様ですね。こちらです。」

「お願いします…」

「長谷さん、娘さん来ましたよー」

「っ…」

「…何かあったらこのボタンで呼んでくださいね」

「ありがとうございます…」

つい数日前まで連絡をとっていたのに、目の前にいるのは一体誰なんだろうか。

『コロナのことがあるので、本当は道外からの方はお断りしてるんですけど…』

部屋に向かう途中に言われた言葉が頭について離れない。つまりはそういうことだろう。

温かい手を握って、眠る横顔をただずっと見つめていた。

(アラーム)

「…なんで今この夢見るかな…」

母さんが亡くなったときの夢を見た。体がずっしり重たくてため息が出る。

ﾋﾟｺﾋﾟｺ
"おつかれ。まだ家か？"
"まだ家ならこれから拾いに行くから、今日舞洲お願いしていい？"

『もちろんです。あとどのくらいでいらっしゃいますか？』

"5分で着く"

『わかりました。準備します』

「言わないと、ダメ、だよね…」