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まふまふside
「え……?」
あまりにも突然の話に思考が追い付かない。
もうすぐ死ぬ?
なんで、そんなことが顔色一つ変えずにいえるのだろう。
「すみません、驚かせちゃいましたね。私、生まれつきの病気を持っているんです」
病気。
ここに入院しているということはそうなのだろう、と漠然と思っていたが、そこまで、深刻なものなのか?
「病名は栄養失調」
僕でも知っている病名に驚きを隠せない。
でも、おかしい。栄養失調とはそこまで重体化するものなのだろうか。
「本来なら、たいした病気ではないんです。けれど、私はどうも特殊で。食べ物を消化する場所、小腸の機能が生まれつき低いんですよね」
「…でも、それだけなら問題がないんじゃ…」
たとえ食べ物を消化するのが難しくても、ほかにも方法はある。
薬を服用したり。点滴をすれば、直接栄養を血管に送り込むことだってできるはずだ。
「私に薬は効きませんでした。長く服用しているうちに、免疫作用が出てしまったんです。もう、服用できる薬は残っていません」
「なら、点滴とか…」
「点滴も駄目でした。私、金属アレルギーなんです。それも重度の。針を刺した瞬間、腕が赤く腫れあがりました」
何でもないことのように言ってのける。
目の前のことが白昼夢のようにぼやける。これは事実を認識したくない、という僕の拒否反応なんだろうか。
「この間、聞いてしまったんです。もうすぐ私は死ぬって。もう手の施しようがないって。看護師さんは隠そうとしていますが、隠しきれるものではありませんね。態度に現れていますもん」
「なんで…」
なんで、そんなに落ち着いていられるんですか。
そう訊こうとしたけれど、声は出なかった。
彼女にとって、最早自分の死は受け入れるべきものなのだろう。
淡々と僕に説明できるということが、その気持ちを表している。
「話を戻しましょうか」
また、花が綻んだような笑顔を見せる。それはまるで天使のようで。
死に近い人はどこか神々しい、とどこかで聞いたことがある。
僕は初めて、その意味を理解することができた。
「私が看護師さんから逃げていたのは、この病院から出るためです。外に出たことなんて本当に少ししかないんですよ。だから、最期に好きなことをしようと思って」
もしも、彼女の死が変えられない運命ならば。
確実に訪れるものならば。
「僕も協力します。……お願いです。協力させてください」
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます! (2022年12月5日 9時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです! (2022年11月4日 20時) (レス) @page22 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - 藍猫さん» おお!おめでとうございます!!(一年ほったらかしにしてて本当にごめんなさい……) (2022年9月4日 11時) (レス) id: 84f8a35d43 (このIDを非表示/違反報告)
藍猫 - スウッッーーーーー…そういえば10月18日って私の次の日じゃないですか…えまって嬉しい( 〃▽〃) (2021年7月17日 2時) (レス) id: 0f30a0c194 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - 翡翠琥珀さん» 飢えているから書けたんですw そう言っていただけるなんて嬉しいです……! 自信につながります1 (2020年6月18日 21時) (レス) id: a6aff5c4e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年4月30日 15時