エピローグ2 ページ45
『ただいま』
Aが帰ったのは、いつもと変わらないあの場所だった。5年前初めて来てからはずっとそこで暮らしていた、あの場所。
Aは帰ってくるときまってあることをする。
『絶対また会おうね』
それは部屋に飾ってある写真に向かって話しかけること。その写真は、FFIで優勝した時の写真。
イナズマジャパンのメンバーと会ったのは、中学生の時が最後で、それ以降は会えていない。それは当然だった。
年齢が違えば、住んでいる場所も違う。全員と一緒に合うことなど、そう簡単にできることではない。だが、Aは信じていた。
“また一緒にサッカーやろうぜ！”
帰ってきてすることは二つ。一つ、写真に話しかけること。二つ、あの時の動画を見ること。
何度やってきたことか分からないほどずっと続けている習慣。
『会いたいな…』
｢A。お疲れ｣
Aが呟いた直後、ヒロトが帰宅した。
『ヒロトおかえり。送ってくれてありがとう、本当にギリギリだったよ〜！
あのね！試験良い感じだったんだよ！ヒロトが教えてくれた所が出て！』
｢そうか。受かるのは確定だな｣
『まだ分からないよ。だって合格率は3%だから…』
｢3%って、Aにとったら90%みたいなもんだろ｣
『さすがにそれはないよ…』
Aが受けた試験、それは国家レベルのものだった。この試験を受けると決めた理由は特になく、それでも懸命に勉強していた。
そもそも、Aにはまだ明確な夢はない。何をしたいのか、何をするべきなのか。分からないまま大学に行き、試験を受けた。これに意味があるのかどうか分からないほど、Aは悩んでいる。
｢やりたい事が見つかるやつなんてそういるもんじゃねえ。この試験に合格したらその道に進まなきゃいけないわけでもねえ。
Aがやりたい事見つけるまでは待つからな｣
『早く見つけなきゃ待たせちゃうな』
待つ、というのはヒロトとAですれ違っている。なぜなら、待つ、の意味が二人で違うからだ。
お互い分かっているようで実は違う待つ、の意味。それを理解するのはいつになるのか。
｢で、結果はいつなんだ？｣
『１ヶ月後だよ。緊張しちゃうな、１ヶ月も待つなんて…』
｢いつも通りでいいんだよ。試験に受かったって受からなくたって、Aはよくやった｣
『でも約束が…』
｢それは考えとく。とにかく気にせず待っとけばいいんだ｣
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