距離 ページ42
その日の夕方。
『昨日は突然倒れてしまってごめんなさい！』
Aは帰ってすぐに謝った。よほど申し訳ないと思っていたのだろう。
｢Aが無事に帰ってきてくれただけでいいんだぞ。
ヒロトだって来たしな！｣
笑顔でいる円堂に対し、ヒロトはどこか照れている。
『本当の決勝戦では絶対力になってみせます！
まずはシャドウ・オブ・オリオンに勝ったこと、おめでとうございます』
夜になり、ヒロトはAの部屋にいた。
『ヒロトが来てくれて本当に良かった』
｢…悪かったな。もし俺があん時途中でやめてたらAは倒れたりしなかった、そう思ったら俺が出る権利なんてねえな、って感じた｣
『ヒロトのせいじゃない！
監督に伝えてもらった通り、ヒロトのせいなんかじゃないよ。私だって先のことを考えなかったし、私にも責任がある。
それより…』
Aはヒロトに泣き顔で抱きつく。
『ありがとう』
その短い一言にはたくさんのありがとうが込められている。言葉では言い表せられないようなことも。
それを無言で受け止め、強く抱き返すヒロト。
数秒の無言が過ぎるとAは泣き出す。
｢おい…｣
『やっぱりヒロトが好き』
｢はぁ…？｣
訳が分からない。そう直感的に思うヒロト。
『ずっと不安だった、これまで。忙しくて中々休めなくて、ヒロトがまだ私のこと好きでいてくれてるか、分からなかった…好きって、いつかはなくなっちゃうかもしれないから』
Aは知っていた。好きが冷める瞬間を。
親に捨てられたのは、好きが冷めたからだから。
｢俺がそう簡単にAを諦めると思うか？好きじゃなきゃ試合に出てねえよ｣
安心させるかのように優しい言葉とキスを送る。
｢…今日はもう寝るぞ。退院したばっかで疲れてるだろ？｣
『戻らないの？』
｢今日は戻る気しねえ｣
『私も、戻ってほしくない』
二人の距離はまた近づく。この気持ちは離れることも変わることもない。
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